シンガポールと英国の研究者は6月18日、ヒトのインターロイキン11(IL-11)が肝臓にダメージを与えると発表した。研究成果は6月9日付の Science Translational Medicine に掲載された。
デューク-シンガポール国立大学医学部、シンガポール国立心臓センター(NHCS)、およびシンガポールと英国の研究者が共同研究を行い、ヒトのインターロイキン11(IL-11)がヒトの 肝臓細胞にダメージを与えることを明らかにした。この発見は、シグナル伝達タンパク質であるインターロイキンが、パラセタモール(別名「アセトアミノフェン」)中毒で傷んだ肝臓の治療に有効であるという従来の仮説を覆すものだ。
パラセタモールは鎮痛薬として広く処方されているが、その過剰摂取は重度の肝臓障害を引き起こし、死に至ることもある。シンガポールでは、有害物による中毒の最大の原因がパラセタモールである。
ネズミを使った実験によると、パラセタモールを過剰摂取すると、肝臓の抗酸化物質が枯渇し、肝機能障害および肝細胞死につながる一連の反応が起こる。また、パラセタモール中毒のネズミでは血清中に高レベルのIL-11が存在し、これが肝臓の細胞死につながる反応を引き起こす。このため、抗IL-11治療が、肝臓のダメージを修復するだけでなく、肝細胞の再生を促進することが分かった。さらに、人間(異種)のIL-11かネズミ(同種)のIL-11を与えるかによって、ネズミの肝臓の反応が異なり、同種の場合にダメージが起こるこことも判明した。異種の場合にはIL-11レセプターをブロックする反応が起こり、この反応が肝臓を守る。
同チームは現在、IL-11が腎臓など他臓器の再生も阻害するかどうか、研究を進めている。 論文の著者の一人であるデューク-シンガポール国立大学医学部のスチュアート・クック(Stuart Cook)教授は今回の結果について「IL-11が肝臓にとっての毒物ということになり、投薬を原因とする肝臓疾患の治療法に影響を与える」と話している。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部