ナノ結晶をゴムに埋め込んで作成された柔軟なX線は、湾曲した物体の超高解像度画像の道を開いている。
AsianScientist - シンガポールの科学者らは、3次元(3D)物体を画像化できる超高解像度X線を開発した。この研究結果は科学誌 Natureに掲載された。
我々にとって、X線は毎年の健康診断に欠かせないものかもしれない。だが、画像化技術において、高解像度で湾曲した3D物体をキャプチャするためにはまだまだ長い道のりが残っている。何と言っても、現在の機器としてのX線検出器はフラットパネルであり、各ピクセルが独自の集積回路を持つ。このためピクセルは大きすぎて扱いにくく、過熱しやすく、検出器の解像度と湾曲した物体の画像をキャプチャする機能は制限される。
このような課題を克服するために、シンガポール国立大学 (NUS)、香港理工大学、福州大学(中国福建省)の科学者らは、X線トラップナノ結晶に着目した。
リウ・シャオガン (Liu Xiaogang) 教授が率いるチームは、X線曝露後に発光する独特なナノ結晶を作成した。この現象は持続放射発光と呼ばれ、暗闇の中で見られる時計の文字盤の緑がかった輝きを作り出すものでもある。
チームはまず、希土類元素であるテルビウムをフッ化ルテチウムナトリウムと呼ばれる物質の小さな結晶に導入することで作成に成功した。このプロセスはドーピングとして知られている。次に、これらの修飾ナノ結晶をシリコンゴムに埋め込んで、3D物体に巻き付けることができる柔軟性の高いX線検出器を作成した。
著者らによると、この検出器は、X線に対する感度が向上したテルビウムをドープしたナノ結晶により、人間の髪の毛よりも細かい高解像度を持つ。原子を移動させ、テルビウムイオンに向かって結晶全体の中をゆっくりと「飛び回る」電子を生成することにより、X線は2週間以上持続する発光性を作り上げる。ナノ結晶が発光性を維持している限り、加熱すれば記録された画像をいつでも得ることができる。
健康医療分野以外にも、新しいX線検出器を使用すれば、微視的規模で電子機器の欠陥を特定し、貴重な芸術作品を鑑定し、考古学資料を検査することもできる。
リウ教授は「私たちが報告した技術を使えば、湾曲した3D物体を画像化できる待望のソリューションが提供され、臨床現場でのX線検出器と曲げやすいX線マンモグラフィ機器の開発が可能となるでしょう」と期待を込めた。