タイ国立科学技術開発庁(NSTDA)は8月2日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療の鍵となるファビピラビルの活性医薬成分(API)の合成に成功したと発表した。
ファビピラビル(RNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤)は抗ウイルス薬としてインフルエンザの治療に使われており、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の治療にも効果があると報告されている。ファビピラビルをタイ国内で処方することは可能だったが、その活性医薬成分は中国や日本から輸入する必要があった。
NSTDAの先端バイオデザインおよび生体分子工学研究チームのニッティポル・スリモンコルピタック(Nitipol Srimongkolpithak)博士が率いるチームは、タイでのコロナウイルス感染者数がまだ少ない頃から、各国での感染者数が増加するにつれてファビピラビルの輸入がいずれ難しくなるだろうと予測し、ファビピラビルの活性医薬成分の合成プロジェクトに着手した。
チームはいくつかの実験を経た後、タイ国営製薬公社(GPO)から研究資金を得て、タイ大手企業PPTのイノベーション組織とのパートナーシップの下に、ファビピラビルの活性医薬成分の合成に成功した。当初は10リットル未満の製造量だったが、GPOとの共同研究に移行し、パイロットプロセスでは製造量を10~200リットルまで増加できた。合成には容易に入手可能な原料を使用し、2021年初めには合成法の特許を申請済み。
感染症のウイルスは時間が経つにつれて薬剤耐性を得るが、ニッティポル博士のチームはこの合成法の研究に早くから乗り出したことで、COVID-19治療において一歩先を進んだことになる。
タイはBCGエコノミー(バイオ・循環型・グリーンを重視する新経済モデル)を打ち出して、医療・健康分野では市販薬、ワクチン、先進治療薬、遺伝子医学の発展と商業化を目指しており、この合成プロジェクトはその一環となる。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部