シンガポールの実験的薬剤研究開発センター (EDDC) の研究者らは8月10日、ヒトの体内で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が増殖することを阻害する低分子治療薬の化合物候補を発見したことを明らかにした。この化合物候補は、経口投与可能な新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬として期待が寄せられる。
電子顕微鏡で見た新型コロナウイルス(写真提供:日本の国立感染症研究所)
シンガポールでは、パンデミック(大規模で広範囲)からエンデミック(地域的な季語)への移行が掲げられている。
ワクチンの開発は急ピッチで進んでいるが、COVID19の治療に特化した低分子治療薬はまだ少ないのが現状である。現在、米食品医薬品局(FDA)で承認されているCOVID19の治療薬の中には、もともとエボラ出血熱の治療薬として開発されたものであり、しかも点滴投与しなければならないため病院でしか使用することができない薬がある。COVID-19をはじめとするパンデミックに対応するためには、医師が処方し、患者が自宅で経口投与できるような、広く普及した錠剤の形をした薬剤が理想的だ。
シンガポールの科学技術研究庁(A*STAR)が運営するEDDCでは、SARS-CoV-2に有効な低分子化合物をいくつか発見した。EDDCが発見した化合物は、ウイルスの自己複製に必要となるタンパク質の合成を阻害する、プロテアーゼ阻害剤である。この阻害剤は、ヒトタンパク質の合成を阻害するリスクがなく、この化合物で阻害されるタンパク質は広範囲のコロナウイルスに共通するものであるため、将来的なパンデミックを解決できる可能性を秘めている。
EDDCでは、この化合物を用いたヒトでの臨床試験はまだ実施していない。EDDCでは独自開発した阻害剤を迅速に医療現場で活用できるようにするため、パートナーとライセンス契約や共同開発を実施する計画だという。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部