タイ国立科学技術開発庁 (NSTDA) の生命工学研究者らは8月10日、筋肉注射だけでなく鼻腔内投与が可能な新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチンを開発したことを明らかにした。候補薬の一部は既に動物実験で効果と安全性が確認されており、今後はヒトでの臨床試験を予定している。
NSTDA獣医学研究グループ長のアナン・ジョンカエワッタナ (Anan Jongkaewwattana) 博士の研究チームは、2020年1月にCOVID-19ワクチンの開発研究を開始した。同チームは、COVID-19の原因である新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が細胞内に侵入する際、受容体と結合するスパイクタンパク質の遺伝子を作製した。このスパイクタンパク質は、ワクチン接種の際に、SARS-CoV-2の侵入を阻止する抗体を免疫系が産生する起点となる抗原である。アナン博士のチームは、作製された遺伝子に基づき、3つの異なるワクチン開発技術を用いて以下の3つのCOVID-19ワクチン候補を開発した。
COVID-19ワクチンは現在、筋肉注射が主流のため、研究チームは鼻腔内における投与の実現も目標の一つとした。アデノウイルスベースとA型インフルエンザベースの2つのワクチン候補の免疫原性を評価するために、筋肉投与と鼻腔内投与の両方で、マウスを使った動物実験が行われた。同実験ではアデノウイルスベースのワクチンでは、ワクチンを経鼻投与したマウスは病気にならなかっただけでなく、ワクチンを筋肉内投与したマウスよりも体重が増加した。また、安全性試験の結果も良好であった。
A型インフルエンザベースのワクチンについては、マウスを用いた試験で、鼻腔内投与および筋肉内投与のいずれにおいても、高いレベルの免疫が得られたことが確認された。現在、安全性の評価を行っており、動物実験での評価が完了した後、チュラブーン王立アカデミーと共同でヒトでの臨床試験を実施する予定。計画では、第1相臨床試験は2021年下期、第2相は2022年3月頃の見通しという。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部