2021年09月
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7万4000年前、人類はどのようにトバ火山の噴火を生き延びたか

AsianScientist - いいニュースがある。初期の人類は、世界最大の火山噴火の1つによる最悪の影響から守られていたことがわかった。この調査結果は、米国科学アカデミー紀要(the Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)に掲載された。

7万4000年近く前、現在はインドネシアの北スマトラとして知られている場所で、トバという超巨大火山が噴火し、壊滅的な結果をもたらした。ハリウッドの災害映画の中に出てくるシーンでは、トバ火山の噴火は当時の人間のほとんどを一掃し、ほぼ10年続く世界的な火山の冬を引き起こしたと考えられている。しかし、トバ火山の噴火の際に実際に何が起こったのかは、今でも謎のままである。

「私たちはこの噴火が起こったこと、そして過去の気候モデリングから気候に深刻な影響を及ぼした可能性があったことを知っています。けれどアフリカの考古学や気候の記録はそのような劇的な変化を示していません」

論文の主執筆者であるラトガース大学(ニューブランズウィック州)のベンジャミン・ブラック (Benjamin Black) 助教授はこのように話す。

噴火が気候と人類の進化に与えた影響をめぐる議論に決着をつけるために、ブラック助教授と彼の同僚らはバーチャルに時計を戻し、気候モデルを使ってトバ噴火の影響をシミュレートした。

つまり、チームは硫黄排出量の程度、噴火の年、背景の気候状態などさまざまな要因が異なる42の地球気候モデルを分析した。過去の研究によって描かれた世界的ハルマゲドンのようなシナリオとは対照的に、結果は気候の影響は世界中でかなり異なっていた可能性があることを示すものだった。

たとえば、北半球では4〜10°Cの範囲で気温が低下した可能性があるが、南半球では最も厳しい噴火条件に従っても4°Cを超える気温低下はほとんどなかったと考えられる。

「私たちの調査結果から、今までは気候応答の調査にあたり適切な場所を見ていなかった可能性が示されています。アフリカとインドは比較的守られていますが、北米、ヨーロッパ、アジアは気温低下の最前線となっています」(ブラック助教授)

最終的に、ブラック教授らの研究は、トバ火山の噴火がアフリカの初期人類の進化にそれほど大きな影響を与えなかったことを示す、独立した考古学的証拠を示すこととなった。このことを踏まえて、著者らは、今回のアンサンブルシミュレーションの手法を将来も利用して、過去や未来の他の爆発的噴火の理解を深めることができるかもしれないと考える。

「私たちの結果では、噴火による気候への影響をシミュレーションした分布を、古気候学や考古学による記録と整合させることができました。このようにして、地球で最も新しい超巨大噴火による気候の混乱を確率論的に捉えると、将来の超巨大爆発的噴火による社会や環境への影響の分布が不均一であることが強調されます」

著者らはこのように締めくくった。

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