シンガポールのライフ3バイオテック(Life3 Biotech)社とシンガポール国立大学(NUS)は8月12日、エレクトロスピニング技術を使い、植物性タンパク質で肉の食感を再現する研究に着手すると発表した。
ライフ3バイオテック社とNUSの工学部が了解覚書(MoU)を交わし、エレクトロスピニング(電界紡糸)技術を食品開発に応用するという、世界初の試みに共同で挑戦する。魚の切り身や干し肉の食感を植物性タンパク質で再現するのが目的。
従来、エレクトロスピニングは高アスペクト比を持つ薄いフィブリルを防護マスク用に生産にするために使われており、現在のコロナ禍では特に重要な技術。今回の共同研究は、このエレクトロスピニングを使って肉の食感を再現しつつ、栄養価にも富んだナノサイズのタンパク質構造を製造することが可能かどうか検討する。
NUS機械工学部のシーラム・ラマクリシュナ教授ら(左から2人目)(写真提供:NUS)
植物を原料とする食品は、製造方法に関わらず、肉製品に比べて温暖化ガスの排出量が少なく、環境フットプリントの削減に貢献すると考えられているが、植物性タンパク質は消費者にアピールするための肉の食感を再現できないのが問題点であった。エレクトロスピニングは大規模な商用化に適しており、植物性タンパク質を食の主流文化に押し上げる可能性を持つ。
将来的には、エレクトロスピニング技術を微調整しながら異なる舌ざわり、長さ、味わいの繊維を製造するだけでなく、他の身体に良い植物ベースの原料も取り込んでいく予定。
NUS機械工学部のシーラム・ラマクリシュナ(Seeram Ramakrishna)教授は、「食品工学分野は、栄養の摂取方法に大改革を起こす可能性を秘めている。我々の学部が持つエレクトロスピニング技術とライフ3の食品製造プロセスの知識を合わせることにより、植物性タンパク質による繊維構造の形成過程を理解し、植物性タンパク質製品を大規模に製造できるようになるだろう」と期待する。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部