2021年09月
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イモガイが獲物を誘惑する性フェロモン特定 比・米の研究者

イモガイはウミケムシのフェロモンを模倣した分子を放出することで、獲物が持つ自然の性欲に働きかけ、最後は凶器で仕留める。

AsianScientist - 国際チームの研究者らは、イモガイが海の中の獲物を隠れ家からおびき寄せるために放出する低分子を特定した。この研究成果は科学誌 Science Advances に掲載された。

海の世界のセクシーな男女を紹介しよう。それはしゃれたところのないイモガイである。貝殻の独特な形からイモガイと呼ばれ、小柄でカラフルな模様から毒を持っていることは想像もできない軟体動物である。

イモガイは口先に銛(もり)のような歯を持ち、それを使って獲物に毒を注入し、即座に麻痺させる。動かなくなった獲物をゆっくりと運び、口にたぐり寄せる。科学者らは何十年にもわたりイモガイが持つ即効性の毒の化学組成に魅了され、これらの有毒ペプチドを作り変え治療に利用する可能性を模索してきた。

研究者らは以前から魚を狩るイモガイに注目してきた。フィリピン大学 (UP) と米ユタ大学 (U of U) の研究者らが率いる国際チームは、ウミケムシを獲物とするイモガイの一種であるミカドミナシ (Conus imperialis) に注目した。

チームは研究室での実験で、ミカドミナシが低分子化学物質を生成することを発見した。 その化学物質はウミケムシの性的活動を引き起こすフェロモンを模倣したものだった。化学物質の1つはconozolium Aと呼ばれるもので、メスのウミケムシを引き付ける。ウミケムシは尾を追いかけて小さな円を描く泳ぎを見せ、その後、産卵した。一方、genuanineという化学物質はオスのウミケムシに同様の効果を引き起こし、精子を放出させた。

さらに詳細な調査が必要ながら、研究者らは、ミカドミナシが2段階のプロセスによって自然界のウミケムシを誘惑しているのではないかと考えている。まず、イモガイはウミケムシをサンゴ礁から簡単に誘い出すために偽の性フェロモンに曝露させる。次に、移動してウミケムシを毒で刺し麻痺させ、殺す。

とはいえ、プロセスは見た目ほど簡単ではない。何と言っても、成熟したウミケムシが性的に活発になる期間はごく短く、通常は満月が現れる時だけである。

「ウミケムシが未成熟である場合、または性的に活発でない場合は曝露させても模倣フェロモンは何の効果もありません。そのような場合、イモガイは他の狩りのテクニックを使用しなければなりません」

筆頭著者でありフィリピン人科学者のジョシュア・トーレス (Joshua Torres) 博士はこう説明する。博士はUPとU of Uの出身である。

実際、研究室での実験では、ウミケムシがイモガイのフェロモンに曝露しても、チームは性的反応を引き起こすために人工の月光を使用しなければならなかった。したがって、イモガイが実際に自然界でどのように狩りをするのかはまだ分かっていない。

今後、チームは新たに発見された低分子化学物質を新薬開発の出発点として利用したいと考えている。

「イモガイは、獲物が自然に持つ性欲を利用して、凶器で殺す方法を見つけたのです。この発見でワクワクするのは、イモガイは興味深い低分子を組み合わせてそれを行うということです。これらの低分子はいつの日か痛みや他の症状を緩和する新しいタイプの薬の開発のきっかけとなってくれるかもしれません」

上席著者であるU of Uのエリック・W・シュミット (Eric W. Schmidt) 博士は期待を込める。

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