アエタ・マグブコン族は、世界の中でも最も強くデニソワ人のDNAを持っていた。これは、フィリピンの118の民族グループの遺伝的証拠を明らかにした。
AsianScientist - アエタ・マグブコン族と呼ばれるフィリピンの先住民グループは、そのDNAに人類の歴史の手がかりを残している。彼らは、世界で最も多くデニソワ人のDNAを持っている。この調査結果は、科学誌 Current Biology に掲載された。
今のような飛行機やフェリーが存在する前から、初期の人類はすでに移動を繰り返し、新しい土地に移住し、多様な集団の間で生殖が行われた。たとえば、古代のデニソワ人は、オーストラリア人、ニューギニア高地人、フィリピンのネグリト族などから成り立つオーストラレーシア人の祖先と混ざり合っていた。
しかし、この絡み合った歴史の多くはまだ明らかにされていない。現代人の中には祖先のDNAの痕跡があり、過去の混合の証拠となっているが、研究者らはごく最近になって過小評価されていた集団、特にフィリピンの先住民グループのゲノムデータをマッピングし分析した。
デニソワ人とオーストラレーシア人の間の複雑な絡まりあいを理解するために、国際チームはフィリピンの118の民族グループから200万を超える遺伝子型を調査し、ネグリト族の人々から有意レベルでデニソワ人のDNAが検出された。
ウプサラ大学(スウェーデン)のマクシミリアン・ラレーナ (Maximilian Larena) 博士とマティアス・ヤコブソン (Mattias Jakobsson) 教授に率いられ、国家先住民族委員会、文化芸術委員会、その他文化コミュニティ、大学、政府機関など地元フィリピンのさまざまな機関が関与した大規模な共同作業が行われた。
データは既に知られているネグリト族の先祖とデニソワ人の混合を裏付けるものであったが、チームは驚くべき発見をした。アエタ・マグブコン・ネグリト族にはデニソワ人のゲノム刷り込みがかなり残っていたのである。アエタ族はDNAの約5%をデニソワ人から受け継いでいた。これは、最も多くデニソワ人のDNAを持つと以前は考えられていた現在のニューギニア高地人よりも30〜40%多い数値である。
研究者らは可能な生殖パターンについてシミュレーションを行い、祖先からの血統が絡まりあっているにも関わらず、大昔のDNAの中で変異がどのように生じたかを明らかにした。別のデニソワ人の血統は、ネグリト族とニューギニア高地人がすでに分岐した後になって、初めて進化図の中に入り込んだようである。そのため異なる混合が起こり、ネグリト族の間でのさらに大きなデニソワ人のゲノム刷り込みにつながった。
この研究は、オーストラレーシア人が一般的に共有する歴史物語を書き直しただけでなく、アエタ・マグブコン族と他のネグリト族グループとの間の進化の違いを知る手がかりにもなった。
研究者らによると、もっと時代が下った頃、ネグリト族とデニソワ人のDNAをほとんど持たない東アジアからやってきた人々との間に生殖行為があった。東アジアの血統が入り込み混合が起こったため、ネグリト人々が持つ昔からの血統は大きく薄まり、デニソワ人の痕跡は他の遺伝形質により覆い隠された。
しかし、デニソワ人のDNAはそのまま残っているため、アエタ・マグブコン族は他のフィリピンの先住民と比較して、東アジアの人々との混合が最小限であった可能性がある。
2019年にホモ・ルゾネンシスと呼ばれるヒト族の化石が発見されたことに加えて、これらの新たな血統の証拠は古代フィリピンに光を当てるものであり、現代人がフィリピン諸島にたどり着く前に、遺伝的に関連するかもしれない何種類かの先祖の種が島に生息していた可能性を示す。
「全体として、私たちの調査結果は、アジア太平洋地域における現代人と旧人類の複雑に絡み合った歴史を明らかにするものです。そこではデニソワ人とオーストラレーシア人という全く異なる集団が、複数の場所でさまざまな時点で、様々な形で混ざり合ったのです」と著者は締めくくった。