2021年09月
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デザイナードラッグの検知でバイオマーカーを特定 シンガポール国立大

シンガポール国立大学(NUS)の研究チームは、デザイナードラッグに関する検査を促進する新しい方法を考案した。NUS病院薬剤部エリック・チャン(Eric Chan)教授率いるチームは、新精神活性物質(New Psychoactive Substance:NPS)である合成カンナビノイドABD-BUTINACAの使用を検知することが可能になる、3種類の新しい尿中バイオマーカーを特定した。研究成果は、科学誌Clinical Chemistryに掲載された。

NPSは、大麻・ヘロイン・アイス・コカイン・エクスタシー・LSDといった違法薬物の効果を模倣して設計されたドラッグである。法的な禁止を回避するため、異なる化学構造で作られている。NPSの使用者は、シンガポールにおける薬物乱用者の大きな割合を占め、合成カンナビノイドはNPS市場を独占している。

ABD-BUTINACAは新しい合成カンナビノイドで、2019年にヨーロッパで初めて特定され、20年にシンガポールに入ってきた。ABD-BUTINACAに関する3種類の代謝物質が、通常の科学捜査において参照基準として使用可能ではあるが、使用後体内で広範囲に代謝されるため、乱用者の尿サンプルからは検知できないか、できても少量である。

そこでチームは、ABD-BUTINACAの主要な代謝物質の性質を調べ、尿中にある新しいバイオマーカーを特定するために、薬物代謝と薬物動態学の発想を用いて、代謝物質とヒト肝酵素を合成した。その結果、ABD-BUTINACAの15種類の代謝物質と、それぞれの体内における生体内変化の経路が、初めて特定された。そのうち代謝安定性から、4種類を尿中バイオマーカーとして提案した。1つは現在利用可能な参照基準である代謝物質である。この新しい4種類のバイオマーカーのうちの1つ、または組み合わせで構成されるパネルが、ABD-BUTINACAの使用を診断するために開発された。

チームは、合成カンナビノイドの腎臓による新しい代謝物質の性質と、尿内での発現を理解するために、現在の研究方法をさらに拡大する計画を進めている。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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