シンガポールの研究チームが、様々な技術を統合し、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のゲノム全体だけではなく、RNA構造についても研究を行い、感染における重要な宿主因子を発見した。また、1人の患者から分離された欠損株の形状をマッピングし、原株と他の変異種両方の構造を確定した。
この研究は、シンガポール科学技術研究庁(A*STAR)のシンガポール遺伝子研究所(GIS)とバイオ情報研究所(BII)、デューク・シンガポール国立大学医学部が行ったもので、研究成果は、科学誌 Nature Communications に掲載された。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)をもたらすSARS-CoV-2はRNAウイルスの一種であり、そのゲノムは単一で、長さ30キロベースのRNAで構成される。この長いRNAは折り重なって複雑で活動的な形状になり、感染した細胞内で成長し生存するために多くの宿主RNAと相互作用することを可能にする。その一つ、スモールRNAとして知られるsnoRNAは、体内の合成機構を調整して、タンパク質を適切に合成する役割をする。チームは、SARS-CoV-2がsnoRNAと結合してその調整機能を奪うことを発見した。これにより宿主RNA量を減らし、宿主細胞内で更に安定して感染することを可能にする。
長いウイルスのRNAの形状を確定するのは従来困難であったが、研究者達は化学物質を利用してゲノムに沿った全ての一本鎖塩基の位置づけをし、塩基配列決定法を用いてそれらを確定した。どの領域が一対で一対でないかを特定し、この情報を計算モデルと統合してより正確なRNA形状を確定した。
「近年、タンパク質に似たRNAの形状が、小分子の標的になっていることがますます認識されてきている。この研究によるSARS-CoV-2のRNA形状マッピングは、将来の医薬品開発に役立つだろう」
GIS RNAゲノミクス・アンド・ストラクチャ研究所グループリーダーおよびエピジェネティック・アンド・エピトランスクリプトミック・システムズ副局長のワン・ユー(Wan Yue)博士は期待を込めた。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部