シンガポール国立大学(NUS)は、シンガポールとフランスの人工知能(AI)研究における協力関係を基盤とする「デカルトプログラム」の一員として、スマートシティ構想のデジタル変革に取り組むことを発表した。9月24日付。
国境を越えた協働からアクセス性の向上まで、スーパーコンピューターは世界がコロナから回復する上で重要な役割を果たしている。
スマートシティのイメージ
AsianScientist - 2020年の始め、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界中に広まった。このため、飛行機は止まり、国境は閉鎖され、人々はステイホームを続けた。パンデミックにより国境の存在を痛感することとなったが、それはまた国々を一つにまとめた。世界中の研究者らが新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のゲノムの配列を決定して共有した。各国は、マスク、検査キット、さらには自国の医師でさえ、最も被害の大きかった地域に送った。国際援助の名の下に数百万ドルが送られた。
同様に、人々がこの機会に立ち上がり今後は高性能計算(HPC)の力を使おうとするにつれ、パンデミックは過去1年間で高性能計算コミュニティをより緊密に結び付けた。スーパーコンピュータは、何百万ものウイルスゲノムの配列を決定しただけでなく、疾病の蔓延具合や疾病に対抗できる措置をモデル化するのにも一役買った。
このような問題に取り組み始めるために、日本のスーパーコンピューター「富岳」は数カ月早くオンライン稼働を開始した。理化学研究所計算科学研究センターの松岡聡センター長によると、富岳は、もともと2021年になってから稼働を開始する予定だった。松岡教授は、2021年3月2日から4日までバーチャルで開催されたSupercomputing Asia 2021カンファレンスの専門家パネルである第1回HPCセンターリーダーフォーラムで講演を行った。
松岡氏は、既存の治療薬をCOVID-19用に変えるスクリーニングから飛沫感染モデルの詳細なシミュレーションまで行って、直ちに富岳の性能を試し、COVID-19との戦いに利用したことを紹介した。
「パンデミックの解決策を出そうとするならば、非常に微小な原子レベルから社会レベルに至るまでさまざまなシミュレーションを行います」
さらに松岡氏は、この最初の成功に基づいて、国際的な研究パートナーシップのために富岳へのアクセスを開放する計画があることを示し、次のように語った。
「私たちはすでに、HPCスーパーコンピュータ間でとても効果的にデータを共有できるシステムを開発しました。現在はこれをテストして、オーストラリア、シンガポール、その他のアジア諸国に拡大できるかどうかを確認しています」
「このシステムにより、他国の研究者もクラウドを通じて富岳を利用できるようになります。シンガポールにあるギガバイトのファイルでも、データを瞬時に透過的に転送できます」
このオープンな雰囲気の中で、考えられない2つの国同士もパートナーとしてHPCで協力することができる。熱帯の島であるシンガポールとスカンジナビアの国であるフィンランドは9,000キロメートル以上離れている。しかし、シンガポール国立スーパーコンピューティングセンターの最高責任者であるタン・ティンウィー (Tan Tin Wee) 准教授は、両国間の高速光ファイバーリンク及び量子技術を使う安全性の高いデータ転送方法を研究するという覚書に署名した。
「私たちは、HPCの社会的影響と、特に私たちの研究コミュニティと産業コミュニティのためにアプリケーションを翻訳することについてもさらに注目しています。」とタン准教授。
タン准教授は、最終的な目標は、必要なHPCの量に関係なく学生を含め、できるだけ多くの研究者に手を差し伸べ、HPCへのアクセスを真に民主化できるようにすることであると付け加えた。
タイの国立科学技術開発庁スーパーコンピュータセンターの最高責任者であるピヤウト・スリチャイクル (Piyawut Srichaikul) 博士は、タン准教授と同じ意見を持ち、さらにHPCリテラシーの重要性を強調した。
「(タイでは)一般大衆から権威ある人や政治家まで、HPCについての認識と理解は一般的にほとんどありません。人的資本[の不足]は、私たちが長年直面している大きな問題です」
「その結果、最終的に影響を与えるのはユーザーであるため、HPCが私たちの経済と社会に直接影響を与えるかどうかを判断することは困難です」
スリチャイクル博士はこのように述べた。
スリチャイクル博士は、この問題により、国がHPC全体の利点と重要性を理解し、それに投資することが難しくなっていることを教えてくれた。
一般大衆はスーパーコンピューターが人知れずどのような貢献をしているのか知らないかもしれないが、人々の想像力を掻き立てたのは、環境にやさしくなければならないという点である。何と言っても、スーパーコンピューターが真に善の力となるためには、人々だけでなく環境にも利益をもたらす必要がなければならない。これはフィンランドIT科学センターのキモ・コスキ (Kimmo Koski) 最高責任者が指摘したことである。コスキ氏は、プレ・エクサスケール・スーパーコンピュータであるLUMIの場所を決定する際に、コンソーシアムがなぜフィンランドの中でも水力発電により電気が豊富に供給されるカヤーニに注目したのかについて説明した。
再生可能エネルギーの利用可能性はもちろんだが、カヤーニの気候は肌寒く、一年中フリークーリングが可能であることだ、とコスキ氏は説明した。
「スーパーコンピューターからの余剰熱を利用して、地域の家庭の暖房としたいと考えています。これにより、環境に非常に優しくなり、カーボンフットプリントは実質的に無視できるものになります」とコスキ氏は付け加えた。
議論の締めくくりとして、4人のリーダーたちは、HPCは社会のすべての部門と国境を越えて普及し続ける可能性が高いという結論を出した。持続可能性、市民意識、支援の重要性と相まって、アクセシビリティとコラボレーションは今後非常に重要になる。パンデミックがスーパーコンピューターを最前線に送ったのかもしれないが、スーパーコンピューターを最前線に置き続けるには、社会にうまく統合されている必要もある。