航空業界が史上最悪の不況の真っ只中にある中、IPI(※1)イノベーション・アドバイザーであるデレク・シャープルズ (Derek Sharples) 氏(※2)は、CW 航空サービス社が新しいビジネス戦略を実装し、内部プロセスを再構築し、強くなるための支援を行った。
AsianScientist - 2020年は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延を防ぐために国境が封鎖され、航空業界にとって最悪の1年となった。世界の旅客輸送は66%急落し、航空貨物の需要は落ち込み、アジア太平洋地域の航空会社は欧米よりも大きな打撃を受けた。
このような状況を背景として、シンガポールを拠点とし航空宇宙サービスと機器を提供する企業であるCW航空サービス株式会社は、持続可能性と付加価値を高め、商品を多様化する必要性に迫られた。
アフターサービスの強化から最新のモノのインターネット (IoT) テクノロジーを活用した革新的な資産強化サービスまで、取締役のジュリアン・バレット (Julien Valette) 氏と業務部長のデビッド・トライアル(David Trial) 氏は、ビジネスを次の段階に進める方法について豊富なアイデアを持っていた。しかし、これらの計画を実現させるための戦略的な方向性と実施ロードマップが欠けていた。
バレット氏と彼のチームはイノベーション・アドバイザーであるデレク・シャープルズ氏が35年にわたる航空業界から得た経験から助言を受け、IPIイノベーション・アドバイザー・プログラムを通じて、変化に向かう包括性の高い計画を立てることができた。
現在、CW航空サービス社は、航空宇宙機器の販売と製造を行うと同時に販売後の保守・修理・分解検査 (MRO) サービスを提供している。近年の航空宇宙産業におけるIoTテクノロジーの台頭を目の当たりにして、バレット氏は、同社の商品としてIoTを新たに追加したいと考えた。IoTを利用すれば、プラグアンドプレイ・センサーを既存のMROサービスと統合し、顧客の資産の効率を向上させることができる。
IoTソリューションを加えるのは有望ではあるが、この新しい市場でやっていくにはサービス料金、設計、サービス範囲の決定など、ビジネスモデルをさらに調整する必要があった。この目的のために、シャープルズ氏は、彼が航空宇宙産業内に持つ広範なネットワークから技術協力者となりそうな人物を紹介し、それと同時に新しい契約の範囲や顧客との主要な要件の交渉について助言を行った。
CW 航空サービス社とのコンサルティングでは一人で何役もこなしたが、それはシャープルズ氏にとって当然のことだった。シャープルズ氏は技術サポート、製品開発、マーケティング、ロジスティクス、ガバナンスといった分野でのキャリアを持っているのである。
シャープルズ氏はアジア、ヨーロッパ、北米の航空会社や航空宇宙会社で数十年間勤務し、最後にはエアバスヘリコプターズ東南アジアのCEOにまで上りつめた。これらの経験から、彼はビジネス慣行や国内外の事業体とのパートナーシップについて深く理解するようになった。
CW航空社が商品を急速に拡大し、サービス指向の強い戦略に移行したため、バレット氏とチームは会社の内部組織を作り直す必要があった。
シャープルズ氏による奨励もあったことから、同社はマトリックス組織構造を採用した。この構造の下で、人員は二つの職務に分けられた。一つは営業、サービス、エンジニアリングなどの職務であり、もう一つはコンポーネントテスト、地上サポート、MROツールなど同社が専門的に扱う機器に関する職務である。
このアプローチにより、同社は各事業専門のチームを形成できただけでなく、各人員の業務範囲は明確かつ的を絞ったものとなった。
シャープルズ氏によると、マトリックス構造により各従業員が特定の種類の機器やサービスに集中できるようにしたため、顧客中心のアプローチと分散型の意思決定には好都合だった。
シャープルズ氏は「この組織構造により、上司が下す決定の数が減り、スタッフは自分の活動に責任を持つようになります」と説明する。これにより仕事量は軽減されるため、集中して戦略性の高い計画を立てることができるという。
一人の若き経営者であるバレット氏は当初、戦略方向の変化とそれに伴う実装の複雑さに圧倒されていた。
「中小企業の責任者にとって、生活は基本的にマルチタスキングと消火活動です。最後のきっかけはパンデミックでした。私たちは対応する必要がありました。危機を乗り越え、変化した環境で再開できるようにするために、変革のための行動を取らざるを得ませんでした」(シャープルズ氏)
地元の中小企業や新興企業を活性化する取り組みの一環として、IPIイノベーション・アドバイザー・プログラムは、CW航空サービス社が事業戦略と内部組織を見直した際にその足場を探すのを助けた。
「業界のベテランが一緒にいてくれたために、私たちは水中から顔を上げ、優先事項に再び注目し、実際に新しい戦略計画とロードマップを固めることができました」とバレット氏は結んだ。
(※1) IPI
シンガポールに拠点を置くIPI (Innovation Partner for Impact)は、製品、工程、またはビジネスモデルを進化させようとする中小企業 (SME) のビジネス・トランスフォーメーションを可能にするために、シンガポール企業庁 (ESG) と提携し、2019年後半にイノベーション・アドバイザー・プログラムを開始した。高度な技術専門知識、人脈、ビジネス感覚を備えた経験豊富な業界ベテランであるイノベーション・アドバイザーたちが集まり、中小企業の加速的な成長を支援する。
(※2) IPIイノベーション・アドバイザーであるデレク・シャープルズ氏
デレク・シャープルズ氏はシンガポールに本社を置きロンドン証券取引所上場企業であるAvation Plcの社外非常勤取締役である。彼は、複合製造、人工知能、eコマース、無人ドローン、表面仕上げの分野で業務を行うシンガポールの複数の新興企業や中小企業の投資家でもあり、諮問委員会メンバーでもある。