テクノロジーを使用して行動データを分析すると、ペイシェントジャーニーの中で見過されがちな側面を捉え、もっと役に立つサポートを提供できる。
AsianScientist - 2021年10月10日の世界メンタルヘルスデーを記念して、「メンタルヘルスの問題を抱える数百万人の人々を支援するための献身的な努力を追求する」という世界的な使命の継続が明確になった。診断は十分に行われてはいないものの、うつ病や不安神経症などといったメンタルヘルスの不調は世界の疾病負荷の10%を占めており、病気や障害によって多くの命が失われている。
それにもかかわらず、効果的な患者ケアについては今でもよくわかっていない。診断はほとんどの場合難しく、そのために効果的な治療ができない。多くの人が必要な治療を受けることができないと同時に、間違った治療や不適切な治療を受ける人々も少なくない。
このように必要性は満たされていない。それは症状が重複することと、メンタルヘルスの不調がなぜ、どのように発生するのか十分に分かっていないことによる。
さらに、メンタルヘルスの状態に影響を与える複雑な因果要因は、例えばライフイベント、家族関係、文化規範などが挙げられるが、通常は人によって異なる。
この複雑さを考えると、各自独特な経験と社会的背景を考慮するホリスティック・アプローチは、行動医学に不可欠である。人工知能 (AI) システムと新しいデジタルヘルスケアツールが現実世界の要因からエビデンスを引き出すことで、研究者や臨床医は異なる方法で行動医学データを理解するようになり、よい治療方法の開発を推し進め、個人に合わせた治療方法を実現させる。
メンタルヘルスの問題は昔から身体の健康とは異なって扱われることが多く、結果論に過ぎないと認識されていた。しかしながら、これら2つは非常に絡み合っている。どちらかが対応されないままであると悪循環が始まり、日常活動や生活の質が破綻する可能性がある。
たとえば、糖尿病、がん、高血圧などの生理学的症状の管理中は多くの人がうつ病の症状を経験するため、慢性疾患の診断は非常に不安定なものとなる。 一方、精神的苦痛が長引くと、身体的な病気のリスクが高まり、十分な睡眠や薬の服用などといった健康のための行動ができなくなるかもしれない。
このような場合、メンタルヘルスの問題とその悪影響と戦う人々は医療機関の外で対応せざるを得ないことが多いが、最も必要とするときに効果的なサポートにアクセスすることはできない。一般化しつつあるデジタルソリューションによりアクセスの制限や社会的不名誉などといった障壁は緩和され、医療機関外でのケアが可能になりつつある。
個人の日常生活をサポートするためにさまざまなデジタルツールが登場している。ウェアラブル機器やトラッカー端末から遠隔医療プラットフォームやデジタル評価まで、ケアサービスへのアクセスが増えている。
一例として、物質使用障害 (SUD) の治療について米食品医薬品局(FDA)の承認を受けた最初のデジタル治療アプリであるreSETが挙げられる。 ヘルステック企業であるPear Therapeuticsにより開発されたreSETを使うと、SUDに悩む外来患者を治療するための認知行動療法が行える。このアプリは進捗追跡ツールを使用して薬物渇望の抑制と引き金を監視し、回復を支援する介入や教育を行い、コンプライアンスに応じてユーザーに報酬を与える。
モバイルアプリのような患者向けツールだけでなく、新しいテクノロジーは患者の行動と治療効果に関する新しいデータを提供し、行動医学の研究を強化させ、進化している。
臨床使用の承認を得る前に、治療はまず、介入を評価するゴールドスタンダードであるランダム化比較試験により精査される。制御された設定により、研究者は患者背景の違いなど他の変数の影響を除外することができる。
しかしながら、臨床試験でうまくいったからといって、その薬が現実の世界でも効果があるとは限らない。患者の不均一性やその他の背景要因を全体像から除外すれば、服用し忘れ、他の薬剤との相互作用、病状経過に影響を与えるその他の外部要因などといった微妙な違いが臨床試験データから現れることはない。
ほとんどの人は、心の病気に関しては、ペイシェントジャーニーは直線的ではないと分かるだろう。別の課題として、他の身体的疾患ならば疾患の進行と回復を示す明確な評価項目や段階(臨床検査やバイオマーカーなど)があるが、メンタルヘルス障害にはこのようなものがないことが挙げられる。
このような複雑な要因をうまく説明するにあたり、医療機関以外から得られたエビデンスがあれば、患者の経験を理解する上で重要な側面を得ることができる。NeuroBluというAIを活用したHolmusk社の分析プラットフォームがある。このようなイノベーションは、現実世界の行動医学のデータの使用を可能にし、新しいエビデンスの生成のために至急必要とされている。
現実世界のエビデンスは各人の独特の背景における治療効果を示すため、行動医学のアプローチをエビデンスに基づく医療に変えることができる。このような情報があれば、研究者は医薬品開発と臨床試験を改善することが可能であり、医療従事者は多くの治療オプションを持ち、患者のニーズに効果的に対応できるようになる。
世界はパンデミックにより不安定な状況ではあるが、人々はようやく精神福祉に注意を向けるようになってきた。適切なデジタルツールを使えば、複雑な行動医学を深く理解できるようになり、分析を行い高度な治療法を導入でき、ペイシェントジャーニーの中で患者が必要とするよいケアの決定を後押しできる。これらは重要なことである。