2021年12月
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冷凍ソースを常温保存に変え、食品国際市場進出 シンガポール・リアン博士

IPIのイノベーション・アドバイザーであるレベッカ・リアン (Rebecca Lian) 博士は、食品科学とテクノロジーを組み合わせて、FGフード・インダストリーズが世界に進出する手助けを行った。

AsianScientist - ファースト・グルメ(First Gourmet)社のCEOであるジョセフ・リー (Joseph Lee) 氏は、各国にフランチャイズを展開する企業から要望書を受け取った時、同社のインド料理は海外市場で成長する可能性があると考えた。ただし、同社の傘下にあり受賞歴を持つPrata Wala、Zaffron Kitchen、Pavilion Banana Leafといったレストランで供するには、料理に使うソースの完全性を維持するために冷凍保存する必要があった。

ファースト・グルメ社の姉妹会社であり主要サプライヤであるFGフード・インダストリーズがソースを輸出するには、冷凍保存とコールドチェーン・ロジスティクスが不可欠だった。そのコストは大きく、少量の試用出荷も難しかった。

リー氏はシンガポールのIPIイノベーション・アドバイザー・プログラムを通じて、レベッカ・リアン (Rebecca Lian) 博士を紹介してもらった。リアン博士は自身が持つ食品科学の専門知識を活用して冷凍ソースを常温保存食品に変え、FGフード・インダストリーズが世界的に拡大できる道を開いた。

コールドチェーンの問題を克服

リー氏の説明によると、冷凍食品を海外に輸送するには、生産から保管、流通までのすべての段階で正しい温度を維持する必要がある。FGフード・インダストリーズは2年前に世界的なファーストフードチェーンと提携する機会があったものの、コールドチェーン・ロジスティクスのコストは高いため、その機会を逃してしまった。

「そのファーストフードチェーンは、この地域のレストランで私たちのソースのうちいくつかを使用できるかと尋ねました。コールドチェーンの問題があるため、私たちの提供先は地元企業だけでした」とリー氏。「常温保存食品があれば、もっと多くの企業に提供できるかもしれません」とも。

FGフード・インダストリーズの冷凍ソースは室温に置くと、細菌の繁殖により劣化する。したがって、リアン博士に突き付けられた問題は、味を損なうことなく、室温での食品の安定性を改善することであった。

問題の複雑さにもかかわらず、リアン博士は、化学防腐剤を使わず細菌の増殖を抑制できる酸性度、塩分、温度などといったパラメーターの最適な組み合わせを素早く見つけ出した。

貯蔵寿命試験の次の段階は、単純な待機戦術となる。この段階では、ソースの味が時間の経過とともに劣化するかどうかを観察する。現在のところ、FGフード・インダストリーズの6つのソースは品質を低下させることなく、常温で9カ月から12カ月間保存できる保存安定性試験に合格している。

通常は長い試行錯誤のプロセスが必要だが、食品の常温保存を短期間で成功させた。これは食品部門で40年近く蓄積されたリアン博士の技術専門知識の証である。

飲料から料理、菓子、栄養製品に至るまで、リアン博士はさまざまな食品・飲料製品を発展させてきた。最も顕著なのは中国のネスレの製造、運用、研究開発である。業界での豊富な経験により、リアン博士は食品を短期間で改善するいくつかの方法を特定することができる。

成功へのレシピ

FGフード・インダストリーズは海外市場向けに輸出が容易なソースを開発しているが、常温保存食品の使用は、コストのかかるコールドチェーン・ロジスティクスを削減し、あるいは回避できることにもなるため、地元の会社にもメリットがある。

さらに、常温保存食品の開発は1回限りのプロジェクトであったが、FGフード・インダストリーズの製造チームは実務の背後にある科学を理解することができたため、チームにとって非常に貴重であったとリー氏は語った。 リアン博士がFGフード・インダストリーズの R&Dチームに基礎資料を提供し、指導を行ったおかげで、チームは食品技術の基本的なスキルを習得できるようになった。

「リアン博士は私たちの能力とノウハウを強化してくれました。 それは機械の使用に限ったことだけではなく、考え方と自分たちで物事を行う能力についても同様です」とリー氏。同氏はそのうえで得られた知識は将来の新製品開発のために適用できるという。

リアン博士は、たとえそれが包装済食品の貯蔵寿命を延ばすこと、包装を再設計すること、又は新しい製品の完璧な市場開拓戦略を策定したりすることであっても、知識を伝え、企業が革新的な食品を商業的成功に導く役に立ちたいと願っている。

リアン博士は「私は単に実験室の中で試験管を扱い科学を研究していたのではありません。 そうではなく、私は常に市場に影響を与えることを目的として科学を実践してきました」と強調する。

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外部サイト(参考サイト):
https://www.ipi-singapore.org/innovation-advisors-programme

IPIイノベーション・アドバイザーであるレベッカ・リアン博士:

レベッカ・リアン博士は食品業界の専門家であり、長いキャリアを持つ。現在、C-SAW(Centre for the Spread of Affordable Wellness(気軽なウェルネス普及センター))の応用食品研究センターのセンター長であり、IPIのイノベーション・アドバイザーでもある。リアン博士は最近、シンガポールの南洋理工大学(NTU)の化学生物医学工学部の非常勤准教授に任命された。

IPIイノベーション・アドバイザー・プログラム:

IPIは、製品、工程、またはビジネスモデルを進化させようとする中小企業 (SME) のビジネス・トランスフォーメーションを可能にするために、シンガポール企業庁 (ESG) と提携し、2019年後半にイノベーション・アドバイザー・プログラムを開始した。高度な技術専門知識、人脈、ビジネス感覚を備えた経験豊富な業界ベテランであるイノベーション・アドバイザーたちが集まり、中小企業の加速的な成長を支援してくれる。

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