2021年12月
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メドテック、医療ニーズを知って製品開発を アドバイザーら成功の秘訣伝授

シンガポールのIPIイノベーション・アドバイザーらはメドテック業界のトレンド、ビジネス慣行、投資について価値ある知見を提供している。

AsianScientist - 健康ウェアラブル機器から、ロボット手術ツール、人工知能 (AI) により可能となったプレシジョン・メディシンまで、メドテック(医療技術)は近年、大きな進歩を遂げている。現在、パンデミックと世界的な高齢化をきっかけに、この業界は活況を呈している。シンガポールなどの先進国にとって、この部門への投資は成果を上げている。シンガポールには現在、60の多国籍医療企業と250を超える国内企業がある。

IPIイノベーション・アドバイザーであるジョン・テオ (John Teo) 氏、ヤップ・チュー・ロング (Yap Chew Loong) 氏、イグナティウス・ラシアー (Ignatius Rasiah) 教授はこの分野での豊富な経験を生かして、成長企業がこの複雑な状況を乗り越えることを可能にする貴重なガイダンスを提供し、シンガポールの拡大するメドテック分野を支援している。

メドテックの医療に優先順位をつける

ロボット工学やAIなどの先端技術が目立つ中、メドテック革新を推し進めるのは最新の話題となっているデジタル開発ではなく、常に医療ニーズによるべきであるというのがアドバイザーたちの一致した意見である。

「多くの起業家は、テクノロジーは最も重要であると考えています。しかし、私は常に起業家たちに対し、医師と話し、医師が何を望んでいるかを正しく理解し、医師のニーズに合うように製品の構成を変えるように助言しています」とヤップ氏は話す。ヤップ氏はシンガポールと中国のいくつかのメドテック新興企業のエンジェル投資家かつコンサルタントであり、積極的に投資を行っている。

「テクノロジーにより推し進められることがあったとしても、医学に必要でない場合、または製品が臨床経路や規制経路にどのように適合するかを理解できない場合、それはモノにはなりません」

シンガポール国立大学(NUS)の工学リーダーシップ研究所でプログラムディレクターを務め、ヨンルーリン医学部の教授であるイグナティウス教授はこのように説明する。

「医師は特定のプロトコルに従うように訓練されています。これらのプロトコルから逸脱した製品は特定の手順に反することになり、医療過失につながる可能性があるため、医師はその製品を使用しません。規制は国により異なるため、市場ごとに製品を変更しなければならないかもしれません」と、複数のメドテッック企業の起業家であり、メディシス・アジアの元マネージング・ディレクターであるテオ氏は指摘する。

臨床試験から商品化まで

メドテック・イノベーターが犯しがちな間違いは、概念実証の策定と臨床試験の実施に多くの時間と労力を費やしながら、商業化を怠ることだという。

「市場には何があるのでしょうか? その市場はどれくらい大きいのでしょうか? 多くの時間、お金、労力を費やすことができても市場が非常に小さいならば、成功したとしても、何の意味があるのでしょうか?」

ヤップ氏はこのように提起する。

「企業は、概念実証の前の段階であっても、販売経路となってくれる業者を見つけておく必要があります」とテオ氏は話し、「あなたの会社の製品を受け入れてくれる業者をいくつか見つけておけば、規制当局の承認を得ると同時に、あなたの製品をその業者にすぐに渡すことができます」と強調した。

イグナティウス教授によると、製品を市場に投入するためには幅広くビジネスに触れておく必要があるが、研究者から起業家に転向した人たちはこのような経験がないため失敗することが多いという。同教授は、T字型スキルの重要性を強調する。T字型スキルを持つイノベーターは幅広く深い技術知識を持ち、製品の商品化に伴うメドテックのエコシステムと落とし穴の両方を理解している。

競合他社との協働

アドバイザーらは、メドテック分野に流入する資金が不足することはなく、世界中で新規発明が急速に出現しているため、地元の新興企業や中小企業は新しい事業を開始する際にチャンスをつかみ、迅速に行動すべきであると奨励する。

この目的のために、新興企業や中小企業は、ヤップ氏、テオ氏、イグナティウス教授などといったイノベーション・アドバイザーの業界知識とビジネス知識を利用できる。

彼らアドバイザーは関連する分野の中にネットワークを持ち、数十年にわたる商業化の経験があり、メドテックの専門性を十分理解している。企業を地域のエコシステムに根付かせ、新規性のあるソリューションを医学分野の製品にうまく変換できるよう導くことができる。

世界中で見られるメドテック・イノベーションの高まりの中で、計画を迅速に実行することが重要である。ヤップ氏によると、中国の市場に出る前に関連技術の特許を取得しなかったが、製品の開発、製造、販売に成功した企業はいくつかあるが、このようなケースは例外であり、ほとんどの企業には向かないと言う。企業はさまざまな方法を模索し、市場戦略にとって重要な先行者利益を確保すべきであると。

イグナティウス教授も同意見であり、メドテック分野におけるグローバルな視点、協働、オープンイノベーションの重要性が高まりつつあることを指摘し、「シンガポールのすべての企業がグローバルな考え方をするわけではありません。そのような企業はノルウェー、イスラエル、カナダで何が起こっているのかについては知らないでしょう」と語る。ある新興企業からアイデアを持ちかけられたが、検索するとイスラエルの競合企業がすでに行っていたことがわかった、という例がある。「しかし、それで終わりというわけではありません。協働できる可能性はあるので、競合企業がどの分野にいるのか、そこには入り込む隙間があるのかを探します。物事を達成する方法はいろいろあるのです」

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