シンガポール工科大学(SIT)の研究者らは業界パートナーと協力して、医薬品製造における洗浄を合理化する革新的な方法を見い出だしている。
AsianScientist - たとえその名称を知らないとしても、薬を服用したことがある人なら誰でも医薬品有効成分 (API) という概念を知っているだろう。薬に含まれ、意図した効果を生み出す成分である。たとえば、頭痛の治療に使用される特定の薬はAPIとしてパラセタモールを使用している。体の痛みを治療する薬はイブプロフェンを使用している。
製薬会社は最高品質のAPIを生産するにあたり、自社の機器に他の化学物質や汚染物質が微量であっても含まれていないことを確認しなければならない。しかし、清潔を達成することは、口で言うほど簡単なことではない。
この課題に対処するために、シンガポール工科大学 (SIT) とシンガポール科学技術研究庁 (A * STAR) の化学工学研究所 (ICES) の研究者らは協力して、API生産効率を高めるソリューションを開発している。
表面科学の専門家であり、プロジェクトの共同主任研究員でもあるSITのレジナルド・シオ (Reginald Thio) 准教授は、シンガポールでは、API工場は通常多目的に使用されると述べた。 同じ機器が異なるAPIを生産するために異なる目的で使用されることが多いため、製薬会社はAPIが工程内で思いがけない相互作用を生み出さないように気をつける必要がある。もし生み出されたならば、作用機序が損なわれる可能性がある。
「ある製品を作った後、次の製品のために機器を除染する必要があります。これには時間がかかり、工場では処理装置の最大50%が使用できなくなります」とシオ准教授は語る。
実際のところ、業界での長年の悩みの種は、約2週間続くこともある長い除染時間であった。工程を合理化し、機器の所要時間を短縮するために、シオ准教授のチームはAPI製造の洗浄プロトコルを調査し、業界パートナーと協力して、関連する方法の現実的なモデル化を行った。
「私たちが提案する洗浄方法は、十分に練られた実験室測定、数学的モデリング、最新機器、最新検出方法を組み合わせて、製薬工場の除染を再設計することを目的としています」とシオ教授は説明する。
標準的な洗浄プロトコルのうち長い工程の一つとして、さまざまな洗浄溶剤を試験して最も効果的なものを確認する工程が挙げられる。この工程を効率的なものにしようと、チームは複数の溶剤の同時スクリーニングを可能にする溶解装置を使用した。
チームは、最も効果的な洗浄溶剤を特定した後、ICESが設計・製造した特別な洗浄装置を使用した。最後に、結果を現実のAPI工場の状態に結び付けるために、チームは表面現象に関する専門知識を活用して、ある状況で、ある洗浄剤が効果的な理由に関するモデルを作成した。
シオ准教授は「APIと表面との相互作用が活発になると、除去が難しくなることがわかりました」とし、「これは相互作用の強さによるものかもしれません。強い結合を壊すためには、弱い結合に比べて多くのエネルギーを必要とする結合エネルギーの概念と似ています」と述べた。
シオ准教授によると、チームのプロジェクトは、シンガポールのAPI生産と医薬品製造の効率性を全般的に改善する数多くのステップの最初のものである。すでに、チームは1人で行う場合の洗浄時間を考えられていた10営業日から3.5営業日に短縮した。
チームは新しい洗浄剤を提案して、その結果を現実のものとした。GSKなどの製薬会社は汚れた表面を素早く洗浄するようになり、資源と時間を大きく節約することができた。
「私たちの目標は、シンガポールの多目的API工場の所要時間を20%以上短縮することです。これにより、シンガポールで営業する医薬品製造工場にとって大幅なコストダウンとなります。それだけでなく、世界中の医薬品製造の中断時間を短くすることができます」(シオ准教授)
除染の所要時間の効率性を改善した鍵は、学界と産業界の間の緊密な協力にあった。
「このプロジェクトで、ICESはSITの素晴らしいパートナーでした。研究者と学生に最先端の研究所を使わせてくれ、技術支援を行ってくれています。SIT側は、プロジェクトに参加できる学生を提供します。これにより、学生たちは非常に有意義な実社会での経験を積むことができ、就活市場での競争力を高めることができます」とシオ准教授は話す。
参加したSITの学生たちは、新鮮な目で見つめ、授業で学んだことを応用し、プロジェクトの中で遭遇した困難を解決した。同様に、この協力は、将来のエンジニアたちが21世紀に成功するのに必要な実践的トレーニングの一部となる。
シオ准教授(中央)らSIT研究者のチーム
プロジェクトに携わったSITの学生の1人であるハウ・ジー・キャン (Hau Zhi Kyan)氏は「全ての経験はエキサイティングであると同時に目新しく面白いものでした。A * STARとの共同応用研究では、市場性のある成果を出すプロジェクトに触れることができました」と振り返る。
SITの化学工学の卒業生であり、現在は半導体製造会社のプロセスエンジニアであるハウ氏は、A * STARの科学者が、一定の厚さと質量を持つAPIのフィルムでセンサーをコーティングするという課題にどのように対処すればいいのか教えてくれたと語った。ハウ氏はこの課題に取り組む中で、他の工学分野にも使えそうな、変換可能なスキルを習得した。
学生を興味深い産業研究に触れさせることで将来活躍する多くの才能を作り上げ、ICESなどのパートナーも共同作業の恩恵を受ける。
シオ准教授は最後に「このパートナーシップを通じて、SITの教員と研究スタッフは、科学的ノウハウと工学的ノウハウを使用して産業界のベストプラクティスを改善する機会を得ることができます」と締めくくった。