2021年12月
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大豆から持続可能なアルコール飲料「SACHI(サチ)」が誕生

オング・メイ・ホルング (Ong Mei Horng) 博士は食品科学とビジネスに関する貴重なアドバイスを提供して、シンフード・テックが革新的で持続可能なアルコール飲料を商業化するのを支援する。

AsianScientist - 時々頭をよぎることがあるかもしれないが、私たちが好んで食べる食品の一部(牛肉、鶏肉、トウモロコシなど)は、生産することで地球にかなり損害を与えるとされている。しかし、食品以外にも、ビールやワインといったアルコール飲料など、人々が好む飲み物の生産も、多くの場合、環境に優しいものではない。たとえば、1リットルのビールを醸造すると4リットルの水が消費されるため、持続可能性の高い他の方法を開発する必要がある。

もっと環境に優しい代替品を提供しようと、シンガポールを拠点とする食品技術会社であるシンフード・テックは、大豆ホエイから作られたアルコール飲料であるサチの開発に成功した。 成功の鍵となったのはパートナーシップである。シンフード・テックのチームは、シンガポールのIPIイノベーション・アドバイザー・プログラムから、食品科学の専門家としてプロセスの合理化と製品の商品化を支援してくれたオング・メイ・ホルング博士を紹介してもらった。

研究室から市場へ

豆腐製造の副産物である大豆ホエイは、現在のところ商業的価値がほとんどないか、全くないとされ、通常は食品製造会社が前処理を行い、その後処分される。シンフード・テックのCTOであるチュア・ジアン・ヨング (Chua Jian Yong) 博士はこの栄養価の高い液体を有効活用しようと決心し、シンガポール国立大学(NSU)の博士課程の研究の一環で大豆ホエイの発酵を開始した。

チュア博士はすぐに、精密発酵技術を使用すればこの液体がフルーティーで香りのよいな飲料にバイオ変換できることを発見した。さらに研究を続け試験を繰り返すことで、7%のアルコール度数を含み、こくのある日本酒のような味わいのアルコール飲料である「SACHI(サチ)」が生まれた。サチはモスカートやアップルサイダーのようにフルーティーであり、花の香りを持つ。

その後、チュア博士は元学友のジョナサン・ング (Jonathan Ng) 氏と手を組み、新しく起業した。ング氏は、今はシンフード・テックのCEOである。サチは元々、制御された実験室内で小量のバッチで開発されたため、2人は商品化とその後のライセンス供与に向けた厳しい試練に備えるために、工程を量産向けにして合理化するといういくつかの課題に直面した。

「目的は、技術を最初から最後まで完成させ、ろ過や貯蔵寿命など、ライセンス取得者が直面するであろうすべての技術的問題を解決することです。その後になってから初めてこの技術を世界中に広めることができるので、誰もが大豆ホエイを利用して付加価値のある製品を作ることができます」とング氏は説明した。

食品業界の中でも特に研究開発イノベーションと商業化に長年携わってきたオング博士は、透明なボトルの代わりに不透明なボトルを使用して光への露出を減らしたり、製品の貯蔵寿命を延ばすために適切な成分を使用したりするなど、醸造から瓶詰めに至るまで貴重なアドバイスを提供した。 オング博士はまた、チームと個人的に連絡し、発酵、ろ過、沈殿の知識だけでなく醸造業界に関する商業的知見を教えてくれた業界のベテランや分野の専門家との人脈を作り上げた。

チームは実験室で行った過技術を商業レベルで再現することができなかったので、そのような人脈の1つはシンフード・テックのろ過工程を助けてくれた。元マスターブリューワーでありろ過の相談相手となってくれた人がオング博士から紹介され、サチの沈殿について考えられるろ過方法と分離方法を教えてくれ、また、会社が検討可能な他の技術を推奨した。

サチは食品製造会社の副産物を使用して生産するので、ビールやフルーツワインのような従来の醸造工程がない。そのため、製品の純度と独特の味の特徴を確実に再現するための専門技術を開発する必要があった。推奨される工程を使用してさらに試験を行った後、シンフード・テックはサチを商業規模でうまくろ過することができた。

完璧ではなく進歩を追いかける

シンフード・テックのチームの次の課題は、新しいろ過技術を使用して大豆ホエイの歩留まり率を決定することであった。この技術はサチを商業規模でうまくろ過することができたが、大豆ホエイのサチへの転換率は大幅に下がった。

オング博士は、チームが100%の歩留まり率を達成しようと懸命に取り組んでいる間、チームメンバーを軌道に乗せ、モチベーションを維持するには視点を変える必要があると気がづいた。 彼女は、サチは副産物から作られているので、食品製造会社にとっては当然ながら廃棄物ゼロになる説明した。

オング博士は、消費者第一主義について積極的に述べ、現在のテクノロジーでは達成できないかもしれない標準を追いかけるのではなく、チームが製品の商品化に集中できるようにした。

「歩留まり率は、製品の味、透明度、全体的な品質、安全性に影響を与える可能性があります。 歩留まり率が100%の場合でも、製品が顧客の期待に応えられるようにする必要があります」とオング博士は助言した。

「さらに、サチはよくあるビールやワインではありません。健全なビジネスモデルを示しながら消費者の期待に応える製品を作ることが重要です。工程では食品製造会社から出た大豆ホエイを使用し、商業的に実行可能な技術を使用して廃棄物の流れを高付加価値製品として価値を与えるため、環境的に持続可能な目標を達成することができます」と付け加えた。

オング博士の指導に励まされ、シンフード・テックは現在、様々なアルコール度数を持つさまざまな製品を開発しようとしている。これらの製品の中には、ビールやワインにと同程度のアルコール度数を持つ飲料、さらには中国市場を対象とした50%のアルコール度数の製品も含まれ、将来的には従来のアルコール飲料よりも持続可能な代替品への道が開かれている。

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