2022年01月
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メンタルヘルスケアの未来を牽引する3つのテクノロジー

デジタルイノベーションはメンタルヘルス疾患の診断と治療の明るい未来を描くことができる。公平なエコシステムを実現するには、関連するテクノロジーを慎重に評価する必要がある。

AsianScientist - メンタルヘルス疾患の症状はさまざまであり、常に明瞭に現れるとは限らない。そのため、気づかれないことが多い。誤解されたり、容易に忘れ去られたりするため、メンタルヘルス問題の流行は隠れたものとなっていたが、コロナ禍の間にさらに蔓延し、日本などでは自殺率の増加にもつながった。

シンガポールの精神衛生研究所(the Institute of Mental Health)は、1000人を超える参加者の13%がコロナ禍の中で不安またはうつ病の症状を訴えたことを報告した。ただ、ベースラインの統計がないため、新型コロナ発生の前と後の比較は難しかった。

新型コロナは問題を悪化させたかもしれないが、世界的なメンタルヘルスの犠牲者を雪だるま式に増やしたのは長年にわたる放置と不公平である。世界中で2億6400万を超える人々がうつ病に苦しんでおり、さらに数百万人が他のメンタルヘルス疾患を抱えて生活している。最も重要なことは手厚い援助と支援、そして深い理解であることは明らかである。

国連の持続可能な開発アジェンダは、健康的な生活を促進するために、メンタルヘルス障害を2030年までに取り組むべき戦略的優先事項に挙げている。これはメンタルヘルスの治療について時代を意識し、十分なサービスを利用できないことに注目するものである。メンタルヘルスの問題は疾患に関する社会的差別と全体的なデータの欠如によってさらに悪化していく。

デジタルメンタルヘルスは、この状況を変え、費用、地理的距離、患者の不信といった障壁を克服することができるかもしれない。しかし、すでに市場には何千もの健康アプリ出回っているが、それ以上のものが必要になる。むしろ、生活の質に明らかな変化を引き起こすには、継続的なイノベーションが重要である。

コロナ禍の中、将来のメンタルヘルスケアシステムが主要なテクノロジーの進歩によってどのようなものになるかを想像してみたい。

1. 直接的かつ継続的な支援の提供

メンタルヘルス障害には当惑と恥ずかしさがつきまとうことから、患者は、相手が人間ではなくチャットボットならば個人的な情報や感情的な情報をさらしてもいいという気分になるかもしれない。このようなバーチャルコンパニオンは、患者が助けを求める時の客観的なプラットフォームとなり、幅広い人々がいつでもメンタルヘルス支援を受けられるようになる。

チャットボットは、会話や語りを通じて、ユーザーが話す物語に基づきユーザーの気分を検出できるよう開発されている。そして、これらのバーチャルエージェントは、ユーザーに関連する医療手段を教えたり、経験を振り返るように指導したりすることができる。これにより、感情は調整され、心理的な幸福感は向上する。

メンタルヘルス治療を受けることにはためらいがあることに加え、利用の主な障壁として、地理的距離の存在、および遠隔地域と人口密度の高い地域の両方で専門の医療従事者が足りないことが挙げられる。コンピューター化された認知行動療法を人工知能(AI)エージェントで強化したり、あるいは臨床医の支援を得れば、このようなギャップを埋めることができる。

デジタルメディアが持つ相互作用性を活用することにより、セルフヘルプモジュールを含めた数週間のプログラムで、多くはうつ病や不安に関連する歪んだ思考パターンから参加者を徐々に遠ざけることができる。この治療は穏やかなトークセッションの形を取り、治療の継続や健康的な生活習慣の確立を促すことができる。

2. 個別化したメンタルヘルス介入の提供

メンタルヘルス分析が進むにつれて、臨床ケアの選択肢も同様に個別化を加え、強化することができる。AIを利用したツールは、心拍数などの身体データとソーシャルメディア活動などの行動データを組み合わせることができる。 精神疾患は様々であり、そこから発生する症状も様々であることから、そのようなデータは、個々の患者の経験に合わせた治療方法を作り上げることができる。

デジタルモニタリングツールは分析プラットフォームも補完し、日本のCureAppなどのモバイルアプリはニコチン中毒患者の喫煙などの行動を追跡する。健康アプリやジャーナリングアプリは、テキストから重要な思考を抽出する自然言語処理モデルと組み合わせて、医師が診断やサポートオプションを評価する際に考慮すべき点を追加する。

また、家庭への往診と病院への来診の両方のデータを分析プラットフォームに送り、患者のニーズと治療反応について完全な全体像をつかむことができる。データを行き来させるこのメカニズムは分析を行い実現させることができ、医師は患者に関する最新情報を知ることができる。これにより、一層個別化が進み適応性の高い治療が可能になり、患者が来診しない時でもさまざまなメンタルヘルスのニーズに対応できる。

3. リアルワールドエビデンスからデリケートな情報を引き出す

メンタルヘルスの状態に影響を与える可能性のあるさまざまな要因を考えると、まだ記録されていないデータ、または記録されたときに意味のある情報をまだ生成していないデータが研究の混乱を引き起こすことが少なくない。

臨床管理システムは関連するメンタルヘルスデータを使用して、健康診断や服薬遵守を含めた患者の病歴に関する詳細な画像を提供する。これは精神医学研究と臨床診療の両方の役に立つ。

規模が大きくなれば、データベースは、精神障害がコミュニティ内にかける重荷に関する重要な疫学データの照合も行う。 データセキュリティは、これらのデリケートな記録を管理し、信頼を構築し、患者が安心して力を発揮できると感じる環境を作り出すためにも不可欠である。

ヘルステック企業であるHolmuskのNeuroBluプラットフォームなどのデータ分析ツールを使えば、研究者はリアルワールドの行動医学データから情報を抽出できる。 統計分析ツールと双方向性の映像が鍵となり、外部ストレッサーから薬物副作用に至るまで、広範なエビデンスの流れを作り上げる。

患者の症状に関するこのような詳細な記録があれば、ライフサイエンス分野や医療分野の研究者や企業が試験デザインを改良し、多様なニーズに対して効果的な薬を開発するのに役立つ。

研究とイノベーションだけでなく、臨床診療との間にも強力なリンクができれば、リアルワールドエビデンスは、応答性を持ち統合されたメンタルヘルスケアシステムのために、かなり強力なデータ駆動型の基礎を確立できる。

これらのデジタルソリューションにはワクワクさせられるが、ソリューションそのものがメンタルヘルスの問題を解決する答えとなるわけではない。そうではなく、十分なデジタルインフラと臨床専門知識に支えられていれば、デジタルソリューションは根本的に異なるメンタルヘルスケアシステムの中核を形成することができる。これに合わせて、世界経済フォーラムのGlobal Governance Toolkit for Digital Mental Health(デジタルメンタルヘルスのためのグローバルガバナンスツールキット)は、このようなテクノロジーの品質を検証するための有用なガイドラインを定めている。ガイドラインは全体的な基準となり、見落とされがちな社会的対応を網羅しており、関連する技術を慎重に評価する必要性を推奨する。

デジタルメンタルヘルスケアが効果的であるだけでなく、倫理的かつ公平なものであれば、個人もコミュニティも健康でいられる未来は、もはやとらえどころのない夢ではない。

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