2022年02月
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災害関連のコミュニケーションに関する知見交換 リスク認識アジア2021年会議

アジアでは災害リスクコミュニケーションに関するノウハウが蓄積され続けている。リスク認識アジア2021年会議はこれを活用して、回復力のあるコミュニティを構築するために信頼を構築することの重要性について探った。

AsianScientist - 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)や気候変動といった脅威が我々の社会を襲ってはいるが、効果的なコミュニケーションを行えば、大規模破壊と危険回避の違いを生み出すことができる。ただし、ますます混み合うメディアスペースでは、有用なリスク情報が静的ノイズの中に埋もれやすくなっている。

ユーザーたちはほとんど認識することのない無数のデータに埋もれてしまうので、リスクコミュニケーションの作成者にとって、ユーザーの注意を引くことは難しくなっている。誤情報の洪水の中、災害関連のメッセージから重要な考えを抽出しようとしても、刻々変化する状況下では、重要な決定を下す役に立たないことがある。

このような問題を解決しようと、アジアの多数の専門家や活動家を招いてリスク認識 アジア2021年会議( the Understanding Risk (UR) Asia 2021 conference)が再度この地で開催され、災害関連のコミュニケーションに関する知見とベストプラクティス情報が交換された。

この会議は、ロイズレジスター財団リスクに対する大衆認識研究所 (the Lloyd's Register Foundation Institute for the Public Understanding of Risk : IPUR) と、世界銀行が共催したものである。2021年12月2、3の両日、シンガポールのオーチャードホテルでオンラインと対面で同時開催された。

情報を使い意思決定を可能にする

メッセージ伝達のためのさまざまな手段が考えられるが、その中でもコミュニケーションは「伝えること」と「説得すること」の間に位置する。英ケンブリッジ大学・リスクとエビデンスのコミュニケーションに関するウィントン・センターのエグゼクティブ・ディレクターであるアレックス・フリーマン (Alex Freeman) 博士は、この区別を理解することは、役に立ち信頼できるリスクコミュニケーションに不可欠であると述べた。

彼女は基調講演で次のように話した。

「私たちにとって重要なのは、人々が下す決定ではなく、人々がどのように伝えられたかと感じたか、メッセージについて何を感じたかです。人々にとって、特に、私たちが伝えようとすることについて否定的な意見を持つ人々にとって重要なのは、私たちは信頼できるという意識を持ってもらうことです」

例えば緊急時の避難指示のように、時と場所が正しければメッセージは説得力を持つ。しかし、フリーマン博士にとって、リスクコミュニケーションはバランスが取れ、効果的な方法を持つものでなければならない。 情報の発信側は潜在的なメリット、リスク、および不確実性を説明することにより受取側に関連情報を提供するが、最終的に選択をするのは受取側である。「私たちが人々に信頼できる方法で必要な情報を提供すれば、その見返りとして、人々が自分自身で行った判断を信頼することができるのです」とフリーマン博士。

リスク認識アジア2021年会議で発言するIPURの首席科学者あるオリビア・ジェンセン (Olivia Jensen) 博士(右)

信頼の種を蒔く

様々なグループが様々な方法でリスクを評価するが、過去の経験や情報不足により、リスクを回避しようとするグループもある。このようなグループの信頼を獲得し、効果的な関係を持つために、ワクチン信用性プロジェクトの創設ディレクターであるハイジ・ラーソン (Heidi Larson) 博士とアジアの第一人者であるリーサ・リン (Leesa Lin) 博士は、「科学から社会へ、信頼を通じて」というタイトルの双方向全体会議で世論に耳を傾けることの重要性を力説した。

「私たちはリスクに対する人々の認識について知り、彼らのニーズに合わせて私たちのコミュニケーションの性質を調整し、地元コミュニティの信頼できる人物と協力するようにしたいのです」とラーソン博士は説明した。

一方、シンガポール経営大学のデビッド・チャン (David Chan) 教授が言うには、政府などといった機関への信頼を確立するには、次の3つの領域が関係する。

  1. 1. 適格性、つまり、機関の認識された能力
  2. 2. 誠実性、つまり、コミュニケーション伝達者がどれだけ正直に見えるか
  3. 3. 善意、つまり、受け取り側がその機関は善のために行動していると信じているかどうか

同様に、リン博士たちは、情報発信者が信頼できれば、アジア諸国でのワクチンへの信用性と理解を促進するのに役立つことを発見した。 科学者や政治家は、一般市民の言動を定期的にモニタリングすることで、ワクチンに対する不信感を作る要因を特定し、時宜と状況に応じた介入につながるフィードバックを直ちに提供できる。

人気のあるメディアは、リスクコミュニケーションの枠組みの中でも役割を果たしている。Wildtype Media Groupの編集ディレクターであるジュリアン・タング (Julian Tang) 博士は、一般市民が科学的方法に関する知識を深める必要性を次のように強調する。

「科学者は自分自身の仕事の影響を広めたいと考えます」と彼は述べた。「人々に科学に興味を持ってもらうようにするためには、毎日、目に入るものにして、信頼性、好感度、関連性を構築することが最も効果的です」

リスク認識アジア2021年会議に参加した専門家と活動家は、オンライン参加か対面参加かにかかわらず、災害リスク軽減戦略の改善に関する情報を共有した

常態をほめたたえる

歴史を通じて、社会は現在ある脅威や潜在的な脅威に対する回復力を構築する戦略を新しく組み立ててきた。災害から身を守り、災害に対応できるきめ細かな対策を講じることで、コミュニティは災害を予防し、災害からの回復に適した良い環境を整えることができる。

しかし、多くの減災活動は、成功しても目に見えないという性質がある。結果が残念なものになると、リスク管理戦略の失敗として大きな注目を集めることが多い。しかし、脅威が拡大しつつある世界では、何も起こらない方が異常である。

会議の最後を飾って、URとシンガポール南洋理工大学(NTU)の社会災害分析研究所 (DASL) は、災害回避賞を共同で創設した。この賞は、見過ごされがちな災害軽減の取り組みに光を当て、日常を問題なく過ごすせるようにしてくれる緊急作業をほめたたえることを目的としている。

DASLのデビッド・ラレマント (David Lallemant) 主任助教授は「私たちは災害回避を学ぶべきです。ですから、災害回避を重視することが大切です。災害回避を練習し、適応させ、拡大する必要があります。このような介入を意識することで、災害軽減への投資を増やすことができます」と話した。

イノベーター、研究者、政府、一般市民が強力なパートナーシップを持てば、社会全体がリスクをより深く理解し、災害を回避する適切な行動を取ることができる。脆弱性の低減から復旧計画の強化まで、効果的な災害リスク管理の介入により、コミュニティは最悪の状態に備えることが可能であり、そして機能し、繁栄し、復旧後はさらによい状態となる。

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