シンガポール国立大学(NUS)の研究チームは1月20日、ペロブスカイトを用いた太陽電池の電力変換効率で新記録を樹立したと発表した。研究成果は学術誌 Nature Energy に掲載された。
この技術的ブレークスルーは、自動車、ボート、ブラインドなどに対する電力供給に最適な、柔軟・軽量・低コスト・超薄型の太陽電池の開発につながることに期待が寄せられている。
太陽光発電所で使用されている従来の太陽電池は、シリコン系の単接合構造をベースにしていて、その実用的な電力変換効率は工業生産では27%程度が限界である。太陽電池の電力変換効率を30%以上に高めるには、吸収層を2層以上積み重ねることが必要であり、2種類の異なる光電変換材料をICL(Interconnecting Layer)で電気的に接続したタンデム型太陽電池は注目の研究分野である。
NUSのホウ・イー (Hou Yi) 助教(右)ら (提供:NUS)
また、ペロブスカイト型の太陽電池は既存の太陽電池より安価に作製可能であり、さらに柔軟性が高く軽量であることから、シリコン系太陽電池では困難なところにも設置することが可能になると考えられている。ペロブスカイト型タンデム太陽電池は、次世代の薄膜太陽電池として注目されているが、その効率は他のタイプのタンデム太陽電池に及ばない。
NUS化学・生体分子工学科の主任研究員で、同大学太陽エネルギー研究所の「ペロブスカイト型多接合太陽電池グループ」を率いるホウ・イー (Hou Yi) 助教のチームは、タンデム太陽電池内の電圧、光学、電気損失を低減する新規で効果的なICLを開発した。
この技術革新により、ペロブスカイト型タンデム太陽電池の効率が大幅に向上し、23.6%の電力変換率を達成した。この成果は、ペロブスカイト型タンデム太陽電池に関する他の研究によって報告された約20%の電力変換率から大きく飛躍したものであり、現在の太陽光発電市場で主流のシリコン系太陽電池の電力変換率に近づいている。
ホウ助教は本研究について「ペロブスカイト型タンデム太陽電池が、将来の太陽光発電技術の実用化に向けて大きな可能性を持っていることを示した。今回の発見をもとに、タンデム型太陽電池の性能をさらに向上させ、この技術をスケールアップさせたい」と意気込みを見せた。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部