2022年03月
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肝臓がんの原因につながる新しい経路を特定 シンガポール国立大学がん科学研究所

肝細胞がん(Hepatocellular carcinoma:HCC)は、肝臓がんの中で最も多い種類で、世界中のがんに関連した死亡の主な原因の1つである。シンガポール国立大学がん科学研究所(Cancer Science Institute of Singapore:CSI Singapore)の研究チームは、肝細胞がんの原因の新しい経路を特定した。1月18日付発表。研究成果は2021年10月1日、科学情報誌 Science Advances に掲載された。

チームは、機能遺伝子の不完全なコピーで染色体の一部である偽遺伝子に注目し、肝細胞がんの原因として知られる、8つの偽遺伝子を含むがん遺伝子SALL4に焦点をあてた。多くの偽遺伝子は新しい細胞に活発にコピーされるので、メチル基(CH3)がDNA鎖自体に追加される過程であるDNAメチル化に、偽遺伝子が関与している可能性があると仮定した。これによって遺伝子発現方法に影響を与えることができる。そしてDNAメチル化によって時おり遺伝子発現が抑制されることがあることを発見した。

イヴォンネ・テイ(Yvonne Tay)助教授は今回の研究について「肝細胞がん内のSALL4発現を抑制する調節方法として、DNAメチル化を治療に利用できる可能性を示唆した」と語る。

CRISPR技術を用いて、遺伝子特異的DNAメチル化を標的として遮断することで、いくつかの偽遺伝子が、CpG領域の低メチル化(CH3メチル基の欠乏)を引き起こすことが分かった。この領域の低メチル化は、関連する細胞増殖の促進を伴うSALL4遺伝子発現の増加につながる。

筆頭著者であるCSI Singaporeリサーチフェロー、クウォン・ジュンス(Kwon Junsu)博士は「SALL4遺伝子座の低メチル化につながる経路を遮断することは、SALL4値が高い肝細胞がん患者のための貴重な治療効果をもたらし得る」と話す。

肝細胞がん内のSALL4再発現に関するこれらの新しい見識は、斬新な治療アプローチを開発する道を開き、治療パラダイムを変える可能性がある。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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