タイ国家研究評議会(NRCT)主催のタイ発明家デー2021-2022で、NRCTの各賞が発表された。発明賞に「有機亜鉛イオン殺菌剤製品」、研究賞に「光線力学的がん治療用ナノデリバリーシステムとしてのAza - BODIPYカプセル化高分子ナノ粒子」がそれぞれ選ばれた。タイ国立科学技術開発庁(NSTDA)が2月7日に発表した。
タイでは、病気の予防や成長促進のため、家畜に抗生物質が膨大に使用されている。抗生物質は過剰に使用すると食品に残留し、超多剤耐性菌の発生につながるという問題がある。公衆衛生の観点から、多くの国で家畜への抗菌剤の使用や食肉への抗生物質の残留量に対して厳しい制限が課されており、タイの食肉輸出ビジネスにも大きな影響を与えている。
そこでNSTDAの研究チームは、抗生物質に代わる物質として、グラム陽性菌とグラム陰性菌の両方に対して幅広い抗菌活性を示すことが知られている亜鉛イオンを活用した。亜鉛イオンの抗菌・抗ウィルス活性を高めるため、キレート剤と安定化剤を使用した。
(提供:NSTDA)
この技術を活用した亜鉛イオン配合製品は、タイ食品医薬品局(FDA)に動物用飼料として登録された。また、亜鉛イオンの用途が飼料以外にも広がることに着目し、タイFDAの安全基準を満たした亜鉛イオンベースの殺菌剤製品も開発した。
NRCT研究賞を受賞した研究は、革新的ながん治療法である。レスポンシブマテリアル・ナノセンサー研究グループのカンタパット・チャンセンパック(Kantapat Chansaenpak)研究員によると、この治療法では光増感剤を投与した後、光照射を行うと、光増感剤が酸素を活性酸素に変換し、がん細胞を死滅させる。この研究で開発されたナノ粒子は、乳がん細胞の増殖を抑制することが確認されている。
カンタパット博士は、本研究成果を基に、実験用マウスの蛍光色素細胞を撮影するカメラのプロトタイプをアシストとの共同研究で開発中である。スラナリー工科大学のAnyanee Kamkaew(アニャーニー・カムケーオ)教授との共同研究だ。
このほか、タイ国立ナノテクノロジー研究センター(NANOTEC)の研究者であるKanokwan Sansanaphongpricha(カノクワン・サンサナポンプリチャ)博士とSirapassorn(シラパソーン)博士がNRCT論文賞を受賞した。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部