2022年03月
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新型コロナ感染リスクが高い建物の構造とは...シンガポールで空気の流れを研究

AsianScientist (2022年02月07日)-シンガポールの研究者らは寮の空気の流れをマッピングして、空気の停滞につながり、ウイルス感染のリスクを高める建物のレイアウトを特定した。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中に蔓延する中、科学者らは都市部でのこの感染症の伝搬の流れに新しい発見をした。シンガポール工科デザイン大学 (SUTD) のチームは、企業が従業員に提供する寮でのウイルスの拡散に対する換気(または換気の欠如)の影響をモデル化し、その結果を Sustainable Cities and Society 誌に発表した。

シンガポールでは2020年、勤務先から提供される寮に住む人々の間でCOVID-19の感染が急増した。発生にはいくつかの要因が考えられるが、特に密集したスペースは症例数を増やすことが分かっている。これは、COVID-19を引き起こすウイルスは空気感染によって広がるという事実があるため、さらに悪化する。

ウイルスの感染形態を考えると、病気の蔓延を緩和するには適切な換気が不可欠である。良好な風の流れがないと、感染性の呼吸器飛沫が近くに残り、ウイルス粒子が他の人に侵入するリスクが高まる。しかしながら、換気の良い空間を作るには、窓の配置から街路のレイアウトまで、建物の設計を詳細に検討する必要がある。

シンガポールの都市空間の空気の流れに影響を与える要因を十分理解することを目的として、SUTDのファカルティフェローであるジェング・カイ (Zheng Kai) 博士らは、計算流体力学ソフトウェア(computational fluid dynamics software)を使用して、地元にある2つの寮で飛沫の広がりをシミュレーションした。このツールにより、チームは寮内と近隣地域全体の空気の流れそれぞれに対応する飛沫の伝播を追跡し、建物の換気を改善できるかもしれない対策を特定することができた。

第1の寮は11階建ての建物であり、部屋には反対側の壁それぞれに窓があった。

チームによると、そのような構造は、風が1つの開口部から風が吹き込み、別の開口部から吹き出すことができる通風が可能である。興味深いことに、ある感染者のくしゃみをコンピューターシミュレーションしたところ、この風の流れにより軽い飛沫は部屋からすぐに出て行った。

しかし、大きな飛沫はまだ屋内を循環しており、部屋から吹き飛ばされる前にベッドからベッドへと移動していた。シンガポールの自然の風向とは反対側を向いている部屋では、空気が停滞しているため、軽い飛沫さえも10分以上残っていた。そのような状況では、ベッド間の距離を広げても、空気の流れを改善したり、感染のリスクを減らしたりすることはできなかった。

第2の寮には自然換気が可能な適切な開口部がなく、窓は隣接する建物によって塞がれていた。さらに、密集した構造物の列に沿って建築されており、空気が停滞した峡谷のような環境を作り出していた。ジェング博士のチームは、建物に風がほとんど流れていない状態の中では、くしゃみの粒子が少なくとも数分間部屋にとどまっていることを発見した。

チームは、建物の開口部をシンガポールの一般的な風向である北東から南に沿うようにすることで、屋内の換気を改善できることを強調した。その他の設計上の考慮事項には、外気を屋内に流す風入れを追加することや、窓から室内空気を吹き出すための場所を計算して扇風機を配置することなどがある。

ジェング博士は「画一的な方法は有用ではなく、ウイルス感染の抑制に必ずしも効果的ではありません。代わりに、可能な限り部屋の通風を設計すればいいのです。今後の方向性として、換気とウイルス感染の可能性に基づいた単純なリスク定量化ツールの開発を考えています」と話している。

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