シンガポール国立大学(NUS)は5月3日、同大学の研究チームが開発した新しい磁気療法が、乳がん治療における化学療法と併用することでその治療効果を高め、副作用を低減させる可能性があることを発表した。
乳がんは女性のがんによる死亡原因の第1位となっている。乳がん治療の化学療法では、50%以上の患者が副作用を経験することが知られている。また、高用量の化学療法を長期間受けることにより、化学療法に対する耐性が生じる可能性もある。
(提供:NUS)
そこでNUSの研究チームは、OncoFTXシステムと名付けられた開発中の装置を用いた磁気療法を提案した。この磁気療法は、細胞の酸素呼吸を高める効果がある。乳がんなどの特定のがん細胞は健康な細胞より、もともとの酸素消費率が高いため、磁気療法によって過呼吸の状態となり死滅する。一方で健康な細胞は呼吸数の増加に耐え、悪影響を受けないので、がん細胞に対する選択性が高い治療法となっている。
研究チームを率いるアルフレッド・フランコ・オブレゴン(Alfredo Franco-Obregón)准教授は「この磁気療法が普及することで、化学療法への依存を軽減し、化学療法に伴う副作用を減らすことを願っています」と話す。
この磁気治療は、一度の治療で、乳房腫瘍を3ミリテスラの磁場に1時間さらすものであり、これは地球磁場の約50倍、従来の磁気共鳴イメージングの1000分の1の強さとなっている。ヒトにおける安全性の確認と、最適な治療頻度の決定を目的とした臨床試験が2022年後半に実施される予定だ。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部