シンガポール国立大学(NUS)は慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療に有効な生物学的製剤開発につながる有望なタンパク質を発見した。4月24日付発表。
それによると、NUSのゲ・ルォウェン(Ge Ruowen)准教授が主導する研究チームは、肺に存在するタンパク質イズミン1(ISM1)による炎症性肺胞マクロファージ(AM)の選択的除去が肺の炎症抑制に重要であることを発見した。ISM1は、炎症性AMsの表面に存在するGRP78シグナル受容体(csGRP78)を標的として、アポトーシスを誘発することによって、炎症を抑える。ISM1の欠損は、炎症性AMsの大量発生、肺炎の持続、肺気腫の進行、刺激物にさらされなくても肺機能が著しく低下する症状に関連していることも確認された。
炎症性肺胞マクロファージ(AM=画像では赤色部分)によってつくられたタンパク質イズミン1(ISM1=画像左の緑色部分)。黄色部分はISM1とAMが同時に出現している様子で、青は細胞核 (提供:NUS)
COPDの肺の炎症を抑えるには、内在性のISM1だけでは不十分な場合があるため、ゲ准教授らは、同大学薬学部のフレッド・ウォン(Fred Wong)教授と共同で、ISM1の組換えタンパク質を気道に直接投与する実験を行い、有効性を検証した。その結果、ISM1の組換えタンパク質投与により、肺の炎症の抑制、肺気腫の発生抑制、肺機能の回復が確認された。
ゲ准教授は「我々が提案した新たな治療法は、ISM1の組換えタンパク質を用いて炎症性AMsを直接標的とし、COPDの根本原因を抑制することから、今後、世界中の多くの患者を苦しめるこの病気の有効な治療法に発展する可能性があります」と話した。
さらに、ウォン教授は今回の発見について「COPDの治療薬開発に向けた新しい道筋を示すだけでなく、他の炎症性呼吸器疾患においてもISM1が有望なターゲットとなりうることを示唆するものです」と他疾患への応用にも期待を寄せた。
研究成果は2022年1月19日に科学誌 Proceedings of the National Academy of Sciences に掲載された。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部