シンガポール国立大学(NUS)は、皮膚からの汗の蒸発を促進させることで体感温度を約40%低下させるフィルムを開発した。3月25日付発表。
本研究成果を防護服に活用することで、医療従事者など最前線で働く人々の高温による不快感を軽減し、熱中症を予防することに期待が寄せられている。本研究は、シンガポールのホームチーム科学技術庁(HTX)の研究者らと共同で実施した。研究成果は学術誌 Small に掲載された。
医療用防護服は、優れた抗菌・防水性能を有している一方で、水蒸気の排出を妨げ、発汗による体からの放熱を妨げている。そのため、医療従事者など、長時間防護服を着用しなければならないユーザーは、暑さによって生じる身体的・心理的負担を訴えることが多い。
研究チームのメンバーら (提供:NUS)
NUSの研究チームは、蒸発冷却の原理を活用し、吸湿性の高い複合フィルムを用いて、防護服内の環境湿度レベルを制御するというアプローチで、こうした課題の克服を目指した。吸湿性の高い複合フィルムが防護服内の水蒸気を吸収すると湿度が下がり、さらに皮膚からの汗の蒸発が促進される。その結果、発汗による放熱が増え、医療従事者などの防護服ユーザーに快適な環境を提供することができる。
実証試験の結果、35℃環境下において、暑さ指数(体感温度)が64.6℃から40℃まで大幅に低下することが分かった。この程度であればまだ暑いと感じるものの、熱中症や熱けいれん、熱疲労になる可能性は著しく低くなる。
また、このフィルムは、生体適合性が高く無毒であり、吸収速度、吸収容量、機械的特性に優れていることから、頑丈かつ耐久性の高い、実用に適した素材であるといえる。また、価格もリーズナブルであり、軽量性、加工容易性、再利用可能性にも優れるという特徴も有する。
HTXのイン・メン・ファイ(Ying Meng Fai)氏は「このフィルムを防護服に適用することで、最前線で働く職員の暑さによる負担を軽減し、パフォーマンスを向上させることができるだろう」と今後の応用への期待を語った。
NUSの研究チームは現在、このフィルムのさらなる高性能化を目指し、研究を進めている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部