2022年06月
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非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)患者に心血管疾患リスクが高い原因判明 シンガポール南洋理工大学

シンガポールの南洋理工大学(NTU)は5月25日、同大学リーコンチアン医科大学(LKCMedicine)のクリスティン・チャン(Christine Cheung)助教率いる研究チームが、非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease :NAFLD)患者の心血管疾患リスクが高い原因を発見したと発表した。研究成果は学術誌 EMBO reports に掲載された。

NAFLDは、アルコールをほとんど摂取しない患者が罹患する肝臓疾患である。肝細胞に蓄積された脂肪が多いことが主な特徴で、肝硬変や肝がんにつながることもあり、心血管疾患リスクが高い。しかしその理由は明らかにされていなかった。

(提供:NTU)

研究グループは、NAFLDが炎症と血管の損傷を引き起こす一群のタンパク質、ケモカインの過剰生産を促すことを発見した。ケモカインは免疫細胞を強力に引き寄せる物質である。集まる免疫細胞の数が適度であれば異物の排除につながるが、過剰となった場合は異物ではなく、体の組織を攻撃してしまう。

本成果によると、NAFLDの患者の体内ではケモカインレベルが高く、健康な人の最大3倍も多く存在していた。その結果、ケモカインがT細胞を過剰に血管壁に引き寄せ、T細胞が血管の炎症や損傷を引き起こすと、血栓などの心血管疾患リスクを上昇させると考えられる。

論文の筆頭著者であるNTU LKCMedicineのNg Chun-Yi研究員は、「血管は、NAFLDの根底にある炎症性メディエーターや脂質代謝異常の影響を受けやすいと考えられています。我々は、NAFLDの血管細胞はより活性化されており、血管の炎症を起こしやすくなっていることを発見しました」と述べた。

共同研究者であるNUS ヨンルーリン医学部およびシンガポール国立保健機構のダン・ヨック・ヤング(Dan Yock Young)准教授はNAFLDについて、「肝臓だけでなく多臓器に影響を及ぼし、冠動脈疾患や脳卒中などの血管合併症につながる疾患です。本研究は、NAFLD患者と非患者の間で、血管内皮細胞の損傷レベルがどのように異なるかを初めて実証しました。これは、脂肪肝疾患の理解と治療戦略に新たな展望を開く成果です」と述べ、今後の研究に期待を寄せた。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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