2022年06月
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再生医療で培養細胞の微生物汚染を早期発見へ...新規分析法を開発 シンガポールとMIT

シンガポールと米国マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究技術アライアンス(SMART: Singapore-MIT Alliance for Research and Technology) は5月19日、細胞治療に用いるヒト細胞治療製品(CTP)の微生物汚染の有無について早期に発見する新たな指標を開発したと発表した。研究成果は4月13日、学術誌 Molecular Therapy Methods & Clinical Development に掲載された。

細胞治療は、生きた細胞を投与し、損傷した組織を修復したり、変性疾患やがんなどを治療したりする方法で、その可能性に注目が集まっている。しかし、治療に用いる培養細胞は、微生物汚染の影響を受けやすく、汚染されたCTPを介して患者が重篤な細菌感染症を引き起こすリスクがある。

今回、SMARTの学際的研究グループである、個別化医薬品製造のための重要な分析手法グループ(CAMP)の研究者らは、医薬品製造時の品質評価方法である無菌プロセス分析技術(PAT)をより迅速かつ高感度にするための重要品質指標(CQA)を特定した。これによりCTPの製造初期段階における微生物汚染を検出することができるという。

具体的には、培養液中のニコチン酸とニコチンアミドの比率をバイオマーカーとして利用し、細胞培養における幅広い種類の微生物汚染物質を検出する。ニコチンアミドをニコチン酸に変換する酵素は哺乳類では存在せず、その多くが細菌類に存在することから、この比率を利用することで、微生物汚染の有無が検出可能となる。

従来の方法では微生物の検出に最長14日間かかっていたが、この方法では半日に短縮でき、さらに、薬となる培養細胞にもダメージを与えない。また、微生物が検出された場合も、非感染性の死菌と感染性の生菌を区別することができるため、偽陽性率の低減にもつながる。

CAMPの上級博士研究員で論文の主執筆者であるジエイ・ファン(Jiayi Huang)博士はこの方法について「広範な微生物種による微生物汚染を検出するための無菌CQAとして、分泌代謝物バイオマーカーを同定した初めてのものです。これにより微生物学的な安全性を短時間かつ正確に評価することができるため、高品質なCTPの導入と生産増大につながるでしょう」と技術の有用性を語った。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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