2022年06月
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血液がん治療薬で「眠っている」がん遺伝子を活性化 シンガポールがん科学研究所

シンガポール国立大学(NUS)は5月26日、同大学のがん科学研究所(CSI Singapore)と複数の海外の研究機関の研究者らが、血液がんの治療に一般的に使われる薬剤が、メチル化阻害を通して「眠っている」がん遺伝子を活性化する可能性があることを発見したと発表した。研究成果は、学術誌 New England Journal of Medicine に掲載された。

本研究は、米国のハーバード大学のブリガム・アンド・ウィメンズ病院(BWH)、ハーバード大学医学部(HMS)、イタリアのローマ・トル・ヴェルガータ大学、中国の血液疾患研究所附属病院と共同で行われ、メチル化阻害剤であるハイポメチル化剤(HMA)ががん胎児性タンパク質SALL4を活性化することを明らかにした。

現在、骨髄異形成症候群(MDS)患者に対する第一選択薬としてHMAが使用されている。しかし、その作用機序には不明な部分があり、眠っているがん遺伝子を活性化する可能性が指摘されていたが、これまで明確な証明はなされていなかった。

SALL4はがん遺伝子であり、発現がMDSの発症に関わっていることや、がん細胞においてSALL4の活性化とメチル化が関連していることが分かっている。今回、HMA治療とがん遺伝子のアップレギュレーションの関係性を明らかにするため、CSI Singaporeのダニエル・テネン(Daniel Tenen)教授らの研究グループは、HMAとSALL4活性化の関連性や、生存成績への影響について調査を行った。68人のMDS患者の骨髄サンプルをHMA治療の前後に採取して分析した結果、HMA療法はSALL4の活性化を引き起こし、完全寛解の患者であっても生存率が低下する可能性があることが示された。

この結果から、「HMA療法を受けている患者は、SALL4の発現レベルをモニタリングすることが重要だと分かりました。SALL4のアップレギュレーションは、疾患の進行に影響を与える可能性が高い一方、この経路を標的とした薬剤による早期介入を行う患者の特定にもつながるため、予後を改善できる可能性があります」とテネン教授は述べた。

チームは今後、結果を検証するための大規模な前向き研究を実施するとともに、SALL4の発現をモニタリングするための低コストかつ正確なバイオマーカーキットの開発、SALL4を直接標的とした薬剤の開発を目指す予定だ。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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