シンガポール国立大学(NUS)は、同学のデザイン工学部、N.1健康研究所、がん科学研究所(CSI Singapore)の研究チームが、新しい共培養モデルを用いて肝臓がんの進行における内皮細胞の役割について新たな発見をした。5月30日付発表。研究成果は、学術誌 Biomaterials に掲載された。
肝臓がんの主要例である肝細胞がん(HCC)は、世界でも死亡数が多いがんの一つである。近年、進行した肝細胞がんに対していくつかの治療薬が承認されており、抗血管新生治療が一般的に選択される。しかし、治療効果が一時的であることから、肝細胞がん患者の生存に与える影響については明らかになっていない。
そこで、新たな治療標的を見つけるために、チームは人工の体外がん細胞モデルを用いて、がんの発生における内皮細胞の役割を調べた。このモデルは、血管の内壁を形成する内皮細胞と肝臓がん細胞を共培養したもので、がん細胞と周囲の微小環境とのクロストークを理解するために重要な材料となっている。
研究の結果、内皮細胞とがん細胞とのコミュニケーションにより、がんの進行が促進される可能性が明らかになった。「一般的に内皮細胞は、血管を形成する構造的な細胞であると考えられてきました。本研究では、肝細胞がん患者の生存率低下と関連があるCXCL1と呼ばれるタンパク質の産生を、この内皮細胞が促進している可能性が示唆されました」と、本研究を主導したエライザ・フォン(Eliza Fong)氏は説明する。
今回の研究に用いた共培養モデルは、薬剤開発研究に有用であると同時に、がんの進行を理解するための貴重なプラットフォームとなる可能性があるため、研究チームはこのモデルを他のがん種にも広げていきたいと考えている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部