シンガポール国立大学(NUS)の研究者らは、アジア高山地帯における水力発電システムが、気候変動の脅威にさらされていることを明らかにした。6月29日付け発表。研究成果は学術誌 Nature Geoscience に掲載された。
チベット東部の氷河前縁湖。洪水を引き起こし、水力発電所を含め下流に被害をもたらす恐れがある
(Photo credit: Dongfeng Li)
本研究は、NUSの芸術・社会科学部地理学科の研究員であるダンファン・リー(Dongfeng Li)博士を中心に、英国、ネパール、オーストラリア、オランダ、カナダ、スイス、中国、カザフスタンの国際チームで行われた。
ヒマラヤ山脈とその近隣の山脈は、極地を除く地球上で最も広大な氷系であり、世界最大の未開発の水力発電の可能性がある。そのため水力発電プロジェクト(HPP)が進行中であり、多数のダムや貯水池の建設が計画されている。しかし、気候変動により地形が不安定になったことで、多数のHPPが危機にさらされているという。例えば、2021年2月にインドのヒマラヤ氷河渓谷で岩氷雪崩が発生し、建設中のものを含む2つのHPPが押し流されている。
氷河湖の洪水により破壊されたネパールの水力発電所
(Photo credit: Bhote Koshi hydroelectric project)
(提供:いずれもNUS)
リー博士は、こういった災害と気候変動の関係に着目し、アジア高山地域の水力発電ダムと貯水池に対する気候駆動型災害の影響を体系的に調査するプロジェクトを開始した。1960年代から現在までの同地域における氷河、永久凍土、典型的な山岳災害、関連する水力発電の破壊に関するデータを照合・検討した結果、地球温暖化による氷系の融解が、山からの水の供給量とタイミングを大きく変えたことで、下流の食糧およびエネルギーシステムに悪影響を与えていることを明らかにした。
研究チームは、高山地域における気候変動に強い水力発電システムに向けての提言として、
--とした。
「高山地帯での持続可能なHPP開発を成功させるため、政策立案者や利害関係者がこのような新たな危険性を認識し、将来を見据えた適応策や緩和策を採用できることが重要です」とリー博士は本研究の意義を強調した。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部