2022年08月
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心房細動の治療薬を改良し、既存薬の副作用回避 シンガポール国立大学

シンガポール国立大学(NUS)は7月18日、同大学薬学部の研究者たちが心臓の障害である心房細動の治療薬として、既存の治療薬で起こる副作用の回避が期待できる改良型医薬品を開発したことを発表した。この研究結果は3月16日、学術誌 Acta Phamaceutica Sinica B に掲載された。

心房細動は心臓上部の心房が小刻みに震えることで、十分に機能しなくなる不整脈の一つで、心不全や早期死亡、脳卒中を引き起こす可能性がある疾患である。現在、その治療には、心房細動をコントロールし、正常なリズムを維持するための薬剤が使用されている。これらの薬剤は治療効果を発揮する一方で、心臓下部の心室の不整脈を促進し、より危険で致命的な疾患を引き起こす可能性が知られている。また、治療薬の中には、肝臓、肺、甲状腺などの臓器に毒性を示すものもある。そのため、心房細動を治療するための有効かつ安全な薬剤の開発が望まれていた。

シンガポール国立大学(NUS)の研究者ら

NUSの研究チームは、従来の心房細動治療薬であるドロネダロンの化学構造を改変することで、新薬候補の薬剤分子ポイエンダロンの生成に成功した。臨床試験において、ポイエンダロンは高い安全性と有効性を持つ画期的な薬剤となる可能性があることが分かった。ドロネダロンは心臓の酵素を不活性化することで、正常な拍動や心筋細胞の健康維持などの効果を発揮するが、心室性不整脈を引き起こすリスクもある。一方で、ポイエンダロンは治療効果を維持したまま、この副作用を回避することに成功している。

新治療薬の分子構造
(提供:いずれもNUS)

アジア心臓・血管センター(AHVC)シンガポールの循環器医でNUS ヨンルーリン医学部の非常勤准教授であるピピン・コジョジョ(Pipin Kojodjojo)医師は「世界中で3,500万人以上と推定され、現在も増え続けている心房細動の患者さんのために、安全で有効かつ利用しやすい治療薬の開発が望まれています。この新薬は、従来の薬剤の特性を強化すると同時に、危険な副作用や臓器毒性を回避するパラダイムシフトをもたらします」と新薬の可能性をアピールした。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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