2022年10月
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粗塩・織物を使い湿気変動発電デバイス開発―空気中の水分から電気生成《動画あり》

粗塩や織物の端切れなどといったありふれたものだけを使い、周囲の空気中の水分を利用して発電できると想像していただきたい。あるいは紙のように薄い非毒性の電池で日用の電化製品に電力を供給できると考えてみるといい。シンガポール国立大学 (NUS) のデザイン工学部 (CDE) の研究者チームは、薄い織物の層(薄さ約 0.3 ミリ)、粗塩、カーボンインク、特殊吸水ジェルを使い新しい湿気変動発電 (MEG) デバイスを開発した。

従来の単三電池よりも大きな電力を発生させ、日用の電化製品に電力を供給することができるかもしれないという。

タン・スウィーチン (Tan Swee Ching) 准教授(中央)ら研究チームのメンバー

空気中の水分と相互作用を行うと、電気を生成することができる素材がいろいろとある。MEGデバイスは、この素材の特性を利用している。医療モニタリング機器などのウェアラブル電子機器、電子皮膚センサー、情報ストレージデバイスその他の電源内蔵型デバイスが実世界で様々に応用できる可能性があるため、この分野への注目は高まってきている。

現在のMEG技術の主な課題として、周囲の水分に触れたときのデバイスの水飽和および不十分な電気性能が挙げられる。したがって、従来のMEGデバイスが生成する電力は、電気デバイスに十分な電力を供給するには不十分であり、持続可能性もない。

これらの課題を克服するために、CDE 材料科学工学科のタン・スウィーチン (Tan Swee Ching) 准教授が率いる研究チームは新しい MEG デバイスを考案した。このデバイスは異なる特性の2つの領域を持ち、領域同士の水分含有量の違いを永続的に維持して発電できるので、数百時間にわたり電気を生成できる。この画期的な技術は5 月 26 日、科学誌 Advanced Materials に発表された。

(提供:いずれもNUS)

NUSチームの MEG デバイスは、カーボンナノ粒子でコーティングされた薄い織物の層で構成されている。チームは研究で木材パルプとポリエステルで作られた市販の織物を使用した。「粗塩は無毒性であり、生成された粗塩と塩水を処理する淡水化プラントを持続可能なものとできるため、吸水性化合物として選択されました」とタン准教授は話す。

NUSのチームは、湿潤領域と乾燥領域という独自の設計を使用して、湿潤領域では高い含水量を、乾燥領域では低い含水量を維持することができた。これにより、湿潤領域が水で飽和した場合でも発電を続けることができる。屋外の湿度の高い場所に30日間放置された後でも、水はまだ湿潤領域に維持されており、発電を継続するデバイスの有効性が証明された。

「このユニークな非対称構造により、我々のMEG デバイスの電気性能は以前の MEG技術と比較して大幅に改善されました。これによって医療モニター機器やウェアラブル電子機器はじめ、多くの一般的な電化製品に電力を供給することが可能になります」とタン准教授は説明する。チームはこの技術の特許申請をしており、実用化に期待している。

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