2022年10月
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美容院で集められた髪の毛からケラチン抽出、野菜を育てる水耕栽培用機材に使用 シンガポール

シンガポールの南洋理工大学(NTU)の研究チームは、ヒトの髪の毛から抽出したケラチンを使用して都市型農業のための水耕栽培用基材を開発した。9月21日付け発表。研究成果は学術誌 ACS Sustainable Chemistry & Engineering に掲載された。

水耕栽培では、支持構造物および水と栄養素の貯蔵庫として機能する基材を使用して、作物を土壌なしで栽培する。NTUの研究チームが開発したケラチンベースの基材は、白菜・チンゲンサイ・ルッコラといった葉物野菜やマイクログリーンなどの作物でテストされている。

研究チームは、美容院で集められた髪の毛からケラチンを抽出。ケラチン溶液をセルロースと混合して強化し、乾燥させてスポンジ状の基材を作製した。生物分解性があり、分解されると植物の栄養素になるため、持続可能で環境にもやさしい。収穫量は現在、市場で入手可能な材料と同程度である。

ケラチンは植物が成長するための栄養素であるアミノ酸で構成されている。これらのアミノ酸は、ほかの種類の栄養素と結合し、制御された条件下でそれらを放出することが可能である。養分と水分を適切なタイミングで放出することが大切な水耕栽培と都市型農業では、ケラチンは成長媒介として大きな可能性を秘めている。

ケラチンだけでは基材を形成するほど強度がないため、針葉樹パルプから抽出したセルロース繊維と混合して強化し、水膨潤能力を高めた。ケラチン・セルロース基材は、高度に相互接合した細孔構造が含まれるため、毛細管作用が向上する。これにより基材は水ベースの養液を吸い上げ、植物の根に水と栄養素を継続的に供給する。

研究チームは、収穫量を最大化するために、さまざまな作物の要件を満たすケラチン基材の組成をカスタマイズすることを展望する。大規模なフィールドテストを実施するために地元の都市型農家を含む業界パートナーと協議している。

NTU物質科学・工学部の副主任であるヌグ・キー・ウォエイ(Ng Kee Woei)教授は、「髪の毛のほかに、羊毛・角・羽毛といった畜産農家の生物系廃棄物からは大量のケラチンが生み出されます。ケラチンベースの水耕栽培用基材の開発は、農場廃棄物をリサイクルするための重要な方法になり、持続可能な農業に貢献します」と語った。

NTUの研究者ら

ケラチンベースの基材
(提供:いずれもNTU)

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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