シンガポール国立大学(NUS)は10月7日、注意力と集中力を高めるために、「脳をリラックスさせる」マインドフルネス関連の瞑想法とは異なり、脳を刺激して利用・調整しようとする「覚醒に基づく」瞑想法を発見したことを発表した。本成果は科学誌 Current Research in Neurobiology に掲載された。
NUS人文社会科学部心理学科のマリア・コジェフニコフ (Maria Kozhevnikov)准教授らは、東ブータンの長期リトリートセンターで修行した経験豊かな16人の尼僧と僧侶を対象に研究を行った。このうちの10人は、ヒマラヤの極寒の地で大きな体温を生み出すとされるトンモ(内熱)修行の専門家でもある。研究では、2つの異なる瞑想法を行った際の心電図と脳波のデータを収集し比較した。1つは非タントリック・マハムドラ(休息後に行う瞑想)と、もう1つはタントラ・マハムドラ(神として自己視覚化した後に行う瞑想)だ。また、そのうち10人はトンモも実践した。
その結果、非タントリック・マハムドラではマインドフルネス関連の瞑想と同様の傾向を示すことが分かった。一方で、タントラ・マハムドラとトンモを行った修行者は、「闘争・逃走」反応の強化につながる脳の刺激状態を実現させ、通常よりも高いレベルのパフォーマンスと認知能力を獲得できることがわかった。また、トンモを行っている修行者は交感神経系をある程度自発的にコントロールすることにより、体温を上昇させていることも示唆された。
コジェフニコフ准教授は、「新しく発見された瞑想法は、例えば戦場で飛行機を操縦するパイロットのように、マインドフルネス関連の瞑想ができない状況で高いストレスにさらされた人が注意深さを維持し、目的を遂行する際などに有用でしょう」とし、「今回研究した高度な修行は現在消滅の危機に瀕しているため、科学的な注目を集めることで保護に貢献できることを期待しています」と話した。
研究チームは今後、さまざまな認知系の病気の予防や、創造的職業従事者のパフォーマンス向上を目的とした瞑想法について、どのように体が反応しているのか解析を進めたいとしている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部