2022年11月
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電子が液体のように流動することを発見、エラーを起こしにくい量子コンピューター開発へ シンガポール

シンガポールの南洋理工大学(NTU)は、同大学の研究者らが電子を超低温で制御する方法を発見し、このことにより、より堅牢で正確な量子コンピューターを開発する道が開けたことを発表した。10月21日付け。研究成果は、科学誌 Nature Communications のオンライン版に掲載された。

ベント・ウェーバー(Bent Weber)助教授(中央)ら研究チームのメンバー
(Credit: SPMS/NTU Singapore)

従来のコンピューターに比べ、高速計算ができることで知られる量子コンピューターは、絶対零度、つまり約-273℃に近い超低温下で電子または光を操作することによって情報を保存している。しかし、振動や熱放射など、環境からの妨害によってデータの保存や処理のエラーが発生しやすいという大きな問題を抱えている。

この問題を解決するための1つの方法として、電子を「パラフェルミオン」と呼ばれる状態にする方法が検討されている。これは、電子が集まり粒子状になっている状態であり、電子間の相互作用や物質内での電子の動き方が安定しているため、環境からの影響を受けにくい。もしパラフェルミオンが量子コンピューターの情報保存に使われれば、エラーを起こしにくくなると考えられている。

今回、NTU物理数理科学部のベント・ウェーバー(Bent Weber)助教授が率いる研究チームは、超低温の絶縁体上では、電子同士が相互作用によって液体のように流動することを発見した。走査型トンネル顕微鏡を用いた実験を行い、約-269℃で、特殊な極薄の電気絶縁材料の端を、顕微鏡の先端から1ナノメートル以下の距離に近づけ、顕微鏡から電流を流し電子の挙動を観察した。その結果、通常、電子は無秩序に動くが、超低温状態では電子間の相互作用が強まり、液体のように1本の線に沿って流動する現象が見られることが分かった。この現象は、これまで理論モデル上でしか存在しなかったものだ。

電子が液体のように流動する様子 (Credit: SPMS/NTU Singapore)

液体のように電子を一直線に並べることは、パラフェルミオンを形成するために重要な要素の1つであると研究者らは考えており、エラーを起こしにくい量子コンピューター開発への期待が高まっている。

走査型トンネル顕微鏡を使用する研究員ら (Credit: SPMS/NTU Singapore)

走査型トンネル顕微鏡の先端と、顕微鏡の超高真空チャンバー内のテストサンプルの拡大図
(Credit: SPMS/NTU Singapore)
(提供:いずれもNTU)

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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