シンガポール国立大学(NUS)のダーウィン・オンライン・プロジェクトが、個人が所有するダーウィン原稿(1865年に執筆)の一つを公開した。11月24日付け発表。
1859年11月24日にチャールズ・ダーウィンの「種の起源」が出版されたことを記念し、11月24日は「進化の日」とされている。今回、同日に公開された以下の原稿は、雑誌掲載のためにダーウィンが手書きをしたものだ。
「生命の起源やその本質という非常に高度な問題に対して、科学がまだ光を当てていないということは、(進化論に対する)正当な反論ではない。重力や引力の本質が何であるか、誰が説明できるだろうか。かつてライプニッツがニュートンに『哲学にオカルト的特質と奇跡を持ち込んだ』と非難したにも関わらず、この未知の引力が引き起こす結果を追究することに、今や誰も反対しないのだ」
これは、1861年に発刊された「種の起源」第3版の結論の一節である。なぜダーウィンは490ページある本の中から、特にこの一節を選んだのか。NUSの生物学部で同プロジェクトの創設者兼ディレクターのジョン・ヴァン・ウィーエ(John van Wyhe) 博士は、以下のようにその謎を紐解いた。
「種の起源」の出版直後、進化論に対して多くの異論があったという。ちょうどその頃、ダーウィンはニュートンの伝記を読み、その中で「重力法則は本物ではなく、オカルト的特質と奇跡を科学の中に持ち込んだに過ぎない」とニュートンが批判を受けていたことを知り衝撃を受けた。ダーウィンもまた自然淘汰は非現実的だと批判を受けていたからである。その後、ダーウィンが同僚の科学者にあてた手紙に「将来この例を使って批判者に答えるつもりだ」と書かれていたことがわかっている。そしてダーウィンは、「種の起源」の第3版での加筆にて、その機会を得た。
これらのことから、ダーウィンが1865年にこの一節を選んで書き残したのは、自然淘汰による進化論の強力な弁護材料になると考えたからだと理解することができる。まるでダーウィンが、「ニュートンの重力の法則は偽物だと非難されたが、今では世界中がそれを受け入れている。自然淘汰の法則も同じだ」とでも言うように。ダーウィンは正しかった。彼の進化論は、今やすべての生命科学の基礎となっている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部