シンガポールの南洋理工大学(NTU) は、同大学と米国のハッケンサック・メリディアン・ヘルスの創薬・イノベーションセンター、そしてシンガポール科学技術研究庁(A*STAR) の実験薬開発センターが共同で立ち上げた、薬剤耐性結核菌に対抗する薬の開発に取り組む学際的プラットフォームTOPNet(Targeting Oxidative Phosphorylation Network)の取り組みを紹介した。
グリューバー教授ら
(提供:NTU)
最初の抗生物質であるペニシリンが発見されて以来、人類と病原体との戦いが続いている。世界保健機関(WHO) は、人類が直面する公衆衛生上の脅威として病原体の薬剤耐性を挙げる。特に既存の抗生薬では治療できない多剤耐性菌が引き起こす感染症は急速に拡大しており、2019年には約120万人が死亡し、2050年には年間1000万人が死亡すると推測される。このような状況下において薬剤耐性菌に対抗する薬の開発が急務となっている。
TOPNetは結核菌(Mtb)の代謝における酸化的リン酸化経路に注目して研究に取り組んでいる。この代謝経路はMtbのエネルギー生成に関わり、成長と生存に不可欠なものであるため、阻害する新規化合物の開発が研究目標となっている。TOPNetの研究代表者であるゲルハルト・グリューバー(Gerhard Grüber) 教授は「Mtbの酸化的リン酸化経路の酵素にはエピトープという菌に特有の領域があり、宿主には害がなく、病原体を抑制または殺傷する薬を設計するための興味深いターゲットです」と述べた。
TOPNetの研究者らは、これまでにこの経路における重要な酵素の領域の構造決定に成功した。さらに、その構造をターゲットとして阻害する化合物も発見している。これらの研究成果は25報以上の研究論文で発表され、発見した化合物についての情報開示や特許申請も進んでいる。最近では、発見した化合物が米国の医薬品開発会社にライセンスされ、商品化される予定。
2022年12月2日付け発表。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部