シンガポール国立大学(NUS) は、同大学の研究者が開発した患者個別の薬の組み合わせを特定する人工知能(AI)プラットフォーム「二次表現型最適化プラットフォーム(QPOP)」を利用した治療を実施したところ、標準的な化学療法で治癒しなかった悪性リンパ腫患者17名のうち5名が完全寛解したことを発表した。
アナンド・ジェヤセカラン(Anand Jeyasekharan) 准教授(左)とエドワード・チョウ(Edward Chow) 准教授 (提供:NUS)
悪性リンパ腫はシンガポールで5番目に多いがんである。NUSがん研究所(NCIS) 血液腫瘍科のコンサルタントで、本研究を主導したアナンド・ジェヤセカラン(Anand Jeyasekharan) 准教授は悪性リンパ腫ついて、「一般的に化学療法の組み合わせで治療されるが、悪性度が高いアグレッシブリンパ腫の患者の10人に4人ほどは、標準薬による治療では反応しないか、再発に悩まされることがある」と現状を説明する。
研究で利用したQPOPは、患者から採取した腫瘍サンプルを12種類のリンパ腫用薬剤とともに培養し、その効果を調べた。最大4種類の薬剤による750パターン以上の組み合わせの効果を72時間でランク付けすることができる。
今回の研究では、標準治療で効果を得られなかったリンパ腫患者17名に対して、事前の臨床エビデンスと医師の判断に基づき、QPOPが提示する薬剤を用いた治療を実施した。QPOPの臨床応用研究は世界初の試みとなる。その結果、5名の患者が完全寛解、3名が部分寛解、残りの9名は病状が安定もしくは進行した。研究者らは、標準治療が有効でなかった患者に対してこの結果は異例であるとしている。
NUSのがん科学研究所(CSIシンガポール) の主任研究員でQPOPの開発を主導したエドワード・チョウ(Edward Chow) 准教授は「QPOPにより提供される個別化医療は、医師が行う標準的な方法とは一線を画すものだ」と語り、ジェヤセカラン准教授は「シンガポールで、1年間に最大200人の再発リンパ腫患者がQPOPの恩恵を受ける可能性がある」と期待を込めた。
研究チームは、がん細胞や腫瘍細胞の実験室内での培養方法の進歩によって、QPOPは最終的にあらゆる種類のがんに適用できると考えている。2022年12月16日付け発表。研究成果は学術誌 Science Translational Medicine に掲載された。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部