シンガポール国立大学(NUS)は1月19日、NUSの熱帯海洋科学研究所(TMSI)の研究者らが、従来の水中音響イメージング技術より鮮明な画像取得を可能にする、イルカにヒントを得た小型ソナーを開発したことを発表した。研究成果は学術誌 Communications Engineering に掲載された。
マンダー・チトレ准教授(中央)ら研究チーム
水中音響イメージングは水中の音の反響を元に画像化を行う技術で、この技術を用いたソナーは海洋探査に欠かせないものとなっている。TMSIの研究者らが開発した小型ソナーは、従来の同規模・同目的のソナーと比較して、取得できる画像の明瞭度と使用するセンサーの数およびセンサーアレイの大きさとのトレードオフの点で優れている。
TMSIの研究者らはイルカが水中の物体を音響的にスキャンし、視覚的に一致するものを選ぶことができることから、イルカが反響音から物体の形状についての情報を得ていることを明らかにした。さらにイルカが水中で物体をスキャンする際の反響音を記録し、その結果を今回の小型ソナーの開発に応用している。
研究チームのマティアス・ホフマン・クーント博士
開発した小型ソナーは幅約25センチメートルとイルカの頭部くらいの大きさで、イルカのエコーロケーションに似た鋭いクリック音を発する3つの音響発信機を搭載している。またこのハードウェアを補完するために、研究者らは反響音の視覚化を向上させるソフトウェアも開発した。ソフトウェアにはイルカが反響音の処理に事前情報を利用するという仮説に基づきスパース性という概念を組み込んでいる。これはスキャンされた空間のうち、対象物を示す情報の割合はごくわずかであると仮定するものだ。
コンパクトなソナーは、イルカのエコーロケーションに似た鋭い衝撃的なクリック音を発する3つの音声送信機で構成されている
スパース性を考慮した処理により、従来の画像処理方法 (画像 c および d) で生成されたものよりも明確なバイオミメティックソナーデータの視覚化 (画像 e および f) が生成される。元のオブジェクトは a と b で見ることができる
(提供:いずれもNUS)
新たに開発した小型ソナーとソフトウェアの組み合わせにより3回のクリック音から画像を生成することが可能となった。研究者らは高速な運用が可能なため、この技術は水中の商業用または軍事用ソナーとして応用できる可能性があるとしている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部