シンガポール国立大学(NUS)は1月30日、同大学がん科学研究所(CSI Singapore)のタカオミ・サンダ(Takaomi Sanda)准教授らの研究チームがPIK-75と呼ばれる薬剤がT細胞急性リンパ芽球性白血病(T-ALL)の原因となる2つの発がん経路をブロックし、病気の発症を食い止める新しい治療法を開発したと発表した。研究成果は、学術誌 Haematologica にオンライン掲載された。
研究責任者のサンダ准教授は、「現在のがん治療は、がんタンパク質のような疾患に特異的な単一分子を標的とすることに焦点を当てている。しかしながら、がん細胞は、複数の要因によって生存が支えられ、増殖していることが分かっている。ある特定の阻害要因だけをブロックするだけでは、病気の進行を十分に遅らせることはできない」と説明した。
T-ALLは、疾患の進行を促進するメカニズムをタイプAとタイプBの異常で区別する。タイプAの代表的な例は、TAL1発がん性転写因子(がん細胞の増殖を維持する強力なタンパク質)の過剰発現であり、すべてのヒトT-ALL症例のほぼ半数で見ることができる。一方、タイプBはPI3K-AKT-PTENシグナル伝達経路の活性化によって特徴付けられる。
研究チームは、T-ALLを治療できる潜在的な候補を探すため、薬物スクリーニングを実施した。約3000の化合物の中で、PIK-75にはTAL1転写因子活性とPI3K-AKT-PTENシグナル伝達経路をブロックする機能があり、T-ALL細胞の生存率を大幅に低下させることが分かった。
PIK-75は、PI3K-AKT-PTENシグナル伝達経路の阻害剤として、15年前に宣伝されたが、新しい薬剤が前面に出てきたため忘れ去られた存在だった。臨床現場において、二重阻害メカニズムを持った新薬の利用は実現性があるため、患者に投与できるように、研究者は現在、PIK-75を可溶性類似体にするための研究に取り組んでいる。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部