シンガポールと米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究技術アライアンス(SMART: Singapore-MIT Alliance for Research and Technology)は2月20日、SMARTの研究者らが植物ホルモンの1種であるジベレリン(GA)を非破壊で検出できる近赤外線(NIR)蛍光カーボンナノチューブセンサーを開発し、植物を生かしたまま検証したことを発表した。研究成果は学術誌 Nano Letters に掲載された。
GAは植物が生成する植物ホルモンで、成長と発達に関わるさまざまなプロセスを制御している。気候変動、地球温暖化、海面上昇などによる塩害は、植物のGA生合成を阻害し、代謝も促進することからGA含量を減少させることが知られている。そのため、GAの変化の早期検出は作物への塩ストレスの早期把握につながる。
SMARTの破壊的・持続的精密農業技術(Distap)学際研究グループ(IRG)の研究者とテマセク生命科学研究所(TLL)の研究者らはGAを検出・識別できるNIR蛍光カーボンナノチューブセンサーを設計した。GAの検出は植物体を破壊し質量分析する方法が一般的だが、今回開発したセンサーは非破壊で生体内のGAレベルの変化をモニタリングできる。レタスを用いた実験では、塩ストレスを受けるとレタスはストレス後10日で初めて成長阻害を示すが、GAナノセンサーはストレス後6時間でGAレベルの低下を検出することに成功した。
論文の共同筆頭著者であるマーヴィン・チュンイ・アン(Mervin Chun-Yi Ang)博士は「私たちが開発したセンサーは作物のストレスの検知と対処の方法を変え、収量を改善する可能性がある」と述べた。TLLの主任研究員でシンガポール国立大学(NUS)の浦野大輔准教授は「生産現場で植物成長調節剤として使われているGAの作物への取り込みや代謝の追跡にこのセンサーを使用できるだろう」と語った。
本研究はシンガポール国立研究財団(NRF)のCampus of Research Excellence and Technological Enterprise(CREATE)プログラムの支援を受けてSMARTが実施している。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部