タイ国立科学技術開発機構(NSTDA)は3月4日、NSTDAの国立遺伝子生命工学研究センター(BIOTEC)が開発している生物防除薬、タイのラン農場において、核多角体病ウイルス(NPV)がランの害虫であるシロイチモンジヨトウの食害抑制に高い効果を発揮していることを報告した。
過去4年間、タイのラン農家はイチモンジヨトウの大発生によって数百万バーツもの深刻な被害を受けている。イチモンジヨトウは農薬に強く、防除が難しいことで知られている。2019年、ナコーンパトムのラン農家であるスピシット・ウォンワニッチパン(Supisit Wongwanichpan)氏が防虫剤としてのNPVに興味を持ちBIOTECにコンタクトをとったことから、ウイルス技術生物防除研究チームのリーダーであるサムリット・キウォン(Samrit Kiewwong)氏によるNPVのフィールド試験が始まった。
NPVは鱗翅目昆虫の幼虫期をターゲットとする昆虫病原性ウイルスで、現在、SpexNPVとSpltNPV、HearNPVの3種類が知られている。今回使われたのはイチモンジヨトウを含むヨトウガ類に感染するSpexNPVだ。フィールド試験ではスピシット氏の農場にNPVを投与したところ、散布後3〜5日でイチモンジヨトウに陽性反応が現れ、2カ月後には発生を抑えることに成功した。それから4年が経過した現在も、NPVの継続的な散布で被害を抑えることができている。
NPVは対象となる害虫に対して極めて特異的に作用するため、人体や環境に対する安全性は高い。BIOTECはタイの農業協同組合省農業局と共同でNPVの商業生産を進め、その技術はブライトオーガニック(Bright Organic)社とビーバイオ(Be Bio)社に譲渡された。NPVは、タイの農家がバイオサーキュラー・グリーンエコノミーのモデルに従って持続可能な農業を実践するためのNSTDAのソリューションの一つとなっている。
(提供:いずれもNSTDA)
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部