シンガポールと米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究技術アライアンス(SMART: Singapore-MIT Alliance for Research and Technology)は3月14日、SMARTの破壊的・持続的精密農業技術(DiSTAP)学際研究グループ(IRG)の研究者とシンガポールのテマセク生命科学研究所(TLL)、米MITの協力者らが史上初となるマイクロニードルによる植物へのドラッグデリバリー技術を開発したことを発表した。研究成果は学術誌 Advanced Materials に掲載された。
気候変動、人口増加、耕作地の不足、資源の枯渇などの影響で、農業界は水、肥料、農薬などの資源の効率利用、環境負荷の軽減、持続可能で精密な方法の実施が求められている。作物に効率的に微量栄養素や農薬などを投与するシステムの開発は、資源を節約し、生産性と農産物の品質向上につながることが期待されている。
研究チームは、シルクベースのマイクロニードルを用いて、薬物を植物の深部組織に直接注入する技術を開発した。研究では植物成長調節物質であるジベレリン酸(GA3)を注入する実験が行われた。その結果、従来の葉面散布法よりも成長促進効果があることが分かった。遺伝学的手法を用いた分析でもその効果が確認されており、野菜、穀物、大豆、イネなどさまざまな植物に適用できることも実証した。また、マイクロニードルによる傷跡やカルス形成はほとんど見られず、植物への障害も最小限であることが示唆された。
DiSTAP主任研究員でMIT土木環境工学准教授のベネデット・マレリ(Benedetto Marelli)博士は「現在の農業で行われている葉面散布と比べて、この技術は無駄が少なく資源の節約につながる。農薬のロスを防ぎ、使用量を正確にコントロールすることができるため、収穫量を最適化するハイテク精密農業を可能にした」と述べた。
本研究は、シンガポール国立研究財団(NRF)のCampus of Research Excellence and Technological Enterprise(CREATE)プログラムの支援を受けてSMARTが実施した。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部