シンガポールと米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究技術アライアンス(SMART: Singapore-MIT Alliance for Research and Technology)は3月7日、SMARTとシンガポールの南洋理工大学(NTU)の研究者らが、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)感染症に対して抗がん剤のメトトレキサート(MTX)と抗生物質のバンコマイシンを併用する新たな治療法を開発したことを発表した。研究成果は学術誌 Science Advances に掲載された。
薬剤耐性(AMR)は世界的に重要な健康問題となっており、2019年のAMRに関連、または起因する感染症による死者は495万人にも及ぶ。そのため、AMRの脅威に対する革新的な治療法の開発が求められている。中でもVREはAMR菌の一種で、カテーテルや外科手術に伴う尿路感染や、血流感染、創傷感染などの深刻な感染症を引き起こす可能性があることが知られている。一方で、治療に使われるバンコマイシンなどの抗生物質に耐性を持つため、その治療が大きな課題となっている。
SMARTのAMR学際研究グループ(IRG)の研究者とNTUのシンガポール環境生命科学工学センター(SCELESE)の研究者らは、急性白血病、前立腺がん、乳がん、多発性硬化症の治療に使用されるMTXのVREへの有効性の検証を行った。その結果、MTXとバンコマイシンを併用するとバンコマイシン耐性を持つVREの増殖を効果的に抑制することが分かった。また、MTXは宿主のマクロファージの能力を向上させ、感染部位により多くの免疫細胞を呼び込むことによって、創傷治癒を改善する効果も示した。
本研究の筆頭著者で、SMART AMRの博士研究員であるロニ・ダ・シルバ(Ronni da Silva)博士は「MTXがVREに対して細菌と宿主を標的とする有効な併用薬であることを発見した。これはVRE感染との戦いにおける大きな前進を意味する」と研究の意義を語った。
本研究はシンガポール国立研究財団(NRF)のCampus of Research Excellence and Technological Enterprise(CREATE)プログラムの支援を受けてSMARTが実施している。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部