シンガポール国立大学(NUS)は3月29日、NUSヨンローリン医学部(Yong Loo Lin School of Medicine)とシンガポール国立大学保健機構(National University Health System) が共同で眼科診療のための新しいセンター「センター・フォー・イノベーション・アンド・プレシジョン・アイ・ヘルス(Center for Innovation and Precision Eye Health)」を設立したと発表した。
同センターはシンガポール人の眼の健康管理のために、大規模な人口健康指標や人工知能(AI)を用いた最先端のビックデータ分析を行い、疾患のパターンやトレンドを特定する予定。こうした手法は、費用対効果の高い医療提供につながる。
シンガポールは現在、60歳以上のおよそ18万人が、何らかの視覚障害を抱えているといわれている。急速に高齢化が進むシンガポールの現状を考えると、この数字は2030年までに倍になると予想されている。しかし、多くの人は眼の異常に気づかず、疾患は見過ごされることが多い。眼の疾患を持つ患者の中には、専門医による診断を受ける前に総合病院からの紹介が求められ、その煩わしさから診察を控える人もいる。
「私たちの目標は、地域社会の中で眼の検診を推進し、改善することだ。視力の低下に気づいていない患者をいち早く見つけて治療したい」と同センターの所長であるチェン・チンユウ(Cheng Ching-Yu)教授は話す。
同センターは、地域の眼科医に眼疾患の早期発見のための検診ツールを提供し、地域密着型の眼科診療にも取り組む。スーパーマーケットのセルフレジのように、総合病院内に眼の健康に関するエリアを設けて、患者の眼の健康に関するデータを収集することで、眼科医による診断にかかる時間とコストを節約する。
同センターは臨床診断とケアを強化することに加えて、ゲノムデータを利用した加齢黄斑変性(AMD)や遺伝性網膜ジストロフィー(IRD)など、現在治療法のない網膜変性眼疾患の精密医療の研究を進めていく。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部