シンガポール国立大学(NUS)は3月30日、同大学電子・コンピューター工学科のホー・ギム・ウェイ(Ho Ghim Wei)教授の率いる研究チームが、超薄無機膜を製造するための画期的な技術を開発したと発表した。研究成果は学術誌Natureに掲載された。
従来の膜技術は、精製と分離プロセスを通して、エネルギーを大量消費するため、コストの高い技術となっている。また、この技術を効率的に機能させるためには、圧力や熱、化学物質を組み合わせて処理する必要がある。
ポスドク研究員であるチャン・チェン(Zhang Chen)博士らは、こうした膜技術の限界に挑み、無機膜の新しい合成法を開発した。チャン博士は、自己組織化を利用して、液体の中で自由に浮遊する無機材料を基質上に成膜させた。このプロセスは、特定の用途に合わせて膜の厚さや細孔を調製することができ、高いエネルギー効率を実現した。
今回開発した無機膜は、高度にカスタイマイズが可能で製造方法も単純であることが特徴で、ろ過や分離以外の用途にも役立つ可能性がある。膜が持つ汎用性は、エネルギー変換から触媒作用やセンシング技術に至るまで、膜技術に依存するさまざまな産業や分野を変革する可能性がある。この先駆的な研究は、産業プロセスの効率と持続可能性を促進することで、気候変動に直面しているエネルギー問題を克服する新しい可能性を示す成果と言える。
ホー教授は、膜技術を次のレベルに推し進めるために、学際的な研究メンバーで構成するチームを率いて、多面的な研究プログラムを取り組むことを計画している。ホー教授は「膜組成を幅広く探索し、さまざまなエネルギーと組み合わせることで、新しい活用法を見出し、持続可能な未来に向けて前進したいと考えている」と述べた。
研究チームは、無機膜の製造プロセスを合理化するための自動製造装置の開発も検討しており、技術のスケールアップを目指している。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部