シンガポールでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種により発生したと考えられる心筋炎により2件の死亡事故があり、ワクチン接種の基本的な考え方について議論が起きている。シンガポールの全国公共放送局Mediacorpのニュースチャンネルcnaが5月1日に報じた。
デューク大学-シンガポール国立大学医学部(Duke-NUS Medical School)のオーイ・エン・イーオン(Ooi Eng Eong)教授と、NUSヨンローリン医学部(Yong Loo Lin School of Medicine)のポール・アナンス・タンビーア(Paul Ananth Tambyah)教授は、「重篤な副作用のリスクがないワクチンや医薬品は、残念ながら世界中に1つもありません。ワクチンや医薬品を使用する際には、リスクとベネフィットを適切に分析し、接種のメリットが副作用のリスクを上回るかどうかを確認することが必要です」との立場を示す。
例えば、18世紀にはウイルス性疾患である天然痘が流行したが、ワクチンが開発され、接種の普及により、天然痘ウイルスは撲滅に至った。このワクチンには100万人に1人が死亡するという副作用があったが、天然痘の致死率が30%であったため、副作用のリスクは比較的小さいものと言えた。その後天然痘は撲滅しワクチン接種にメリットがなくなったことで接種も終了した。
研究者たちは次のパンデミックに備え、感染症の発生を想定し、より安全で優れたワクチンの開発に取り組んでいるが、費用の兼ね合いもあり、臨床試験の人数を何十万人と増やすことは難しいため、10万回に1回以下の割合で発生する希少な副作用は、単純な統計上の理由で見逃される可能性が高い。そのため、ワクチンの副作用の原因を理解し、ワクチン接種の利点を維持しながら副作用を軽減することが解決策となり得る。
副作用の中には、複合的な要因が原因のものもあり、副作用や稀な重篤症状を引き起こす分子プロセスの詳細なマップを開発することが、次の新しい感染症などへの安全なワクチン開発のための基礎を築くことになる。研究は進行中だが、将来のパンデミックをより効果的に予防・制御するためのレジリエンスに貢献することが期待されている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部