シンガポールと米国マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究技術アライアンス(SMART: Singapore-MIT Alliance for Research and Technology)は5月4日、研究者らが世界最小の発光ダイオード(LED)とニューラルネットワークアルゴリズムを開発し、これにより既存のスマートフォンカメラを高解像度の顕微鏡に変換することが可能になると発表した。
電子回路に変わるとされる光技術を用いた情報処理に注目が集まっており、光のON/OFFで情報伝搬を行うフォトニックチップの開発が世界的に行われている。既存のフォトニックチップは、チップ外の光源に由来するため、全体的なエネルギー効率が低く、チップの拡張性を根本的に制限する要因となっている。この問題に対処するため、研究者らは、さまざまな材料を用いてオンチップエミッター(チップ上で光子を放出する部品)を開発してきたが、一般的な電子回路基盤技術で標準的な相補型金属酸化膜半導体(CMOS)プラットフォームに統合することは依然として困難であった。
SMARTの破壊的・持続的精密農業技術(DiSTAP)学際研究グループ(IRG)と、個別化医薬品製造のための重要な分析手法(CAMP)IRGの研究者らが開発したLEDは、その課題をクリアし、フォトニクス分野で長年の課題であった1マイクロメートル以下の強力なオンチップエミッターの構築という大きな進歩への道を開くものである。今回開発した新規LEDは、室温で高い空間強度(102±48mW/cm2)を示すCMOS集積型のサブ波長スケールLEDで、これまでのSi発光体の中で最小の発光面積(0.09±0.04µm2)を持っている。
このLEDは、屈折率の差を可視化し撮像するホログラフィック顕微鏡の製造などに使用される予定だ。シリコンチップとソフトウェアの改良のみで、携帯電話などの身近な機器に搭載されているカメラを顕微鏡に変換することが可能であり、さらにSMARTが開発した新しいニューラルネットワークアルゴリズムにより、植物の種子や組織サンプルなど、この顕微鏡で測定した対象物を再構築することができるため、従来は不可能だったさまざまな対象物の顕微鏡検査を強化し、植物の病気や異常な植物組織の検出が可能となる。農業現場において、病害虫の診断などに役立つ予定だ。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部